妻を殺した夫には「殺人よりも」隠しておきたい秘密がある!? 最後のページをめくるまで…

文芸・カルチャー

2019/8/8

『最後のページをめくるまで』(水生大海/双葉社)

 ラストにどんでん返しが起こる小説は、“どんでん返しがあること”が伏せられていればなおおもしろいものだ。しかし、挑戦的なタイトルの『最後のページをめくるまで』(水生大海/双葉社)は、そんな私たちの常識を覆してくれる斬新な1冊だ。

 本作には最後のページで物語の景色がガラリと変わる短編ミステリーが5編収録されている。短編を集めた書籍はひとつひとつの作品が短いため、どうしても長編小説より物語があっさりしていると受け取られがちだ。しかし、本作に収められている短編は、わずか数十ページでもその間に心揺さぶられる起承転結が巧みに詰め込まれているため、ひとつひとつのストーリーは長くはないのに、ズシリと読み応えがある。

『ベスト本格ミステリ2018』(講談社)にも選出された「使い勝手のいい女」を含む、ドライでダークな印象のストーリーの数々は、あなたの心にしっかりと爪痕を残すのだ…。

■妻を殺した夫がゼッタイに隠したい“最後の秘密”とは?

 5つの作品はどれも無我夢中でページをめくりたくなるものばかりだが、私にとって最も衝撃が大きかったのが、「骨になったら」だ。

 ある通夜のシーンから幕を開けるこのストーリーは、主人公・花沢公人が必死で隠している秘密が徐々に明かされていく過程と、読み手の予想を超えるラストシーンにドキドキさせられる。「骨になれば、もう私のやったことは分からない」と繰り返す公人は、自分が妻・桜子を殺したことがバレないよう、遺族席で神妙な面持ちをしながら通夜の行方を見届けている。

 整形外科医である公人の家庭は、息子の死を機に壊れてしまった。かつて一目惚れをして結婚に至った桜子は、自殺未遂を繰り返すほど心を病んでしまい、公人自身は外に愛人を作っていた。「愛人」「妻」というキーワードが登場すると、読者の頭には他の小説やドラマなどでもよく描かれる“不倫殺人事件”が思い浮かぶだろう。しかし、著者の水生氏はこのストーリーをよくある不倫をきっかけにした事件では終わらせず、読者があっと驚くような仕掛けを作中に残しているのだ。

 ストーリーが進むにつれ、徐々に明かされていく公人の過去や本音は、読み手の予想の遥か上を行く。彼が必死で隠そうとしているものの正体や犯行動機を知ると、「骨になったら」という作品名が切なく、そしてさらに恐ろしくも思えてくる。

 話の冒頭を読み始めた時とラストページにたどり着いた時とで、ガラっと変わる独特の世界観。このどんでん返しの鮮やかさは、水生氏ならではの筆力だ。「そろそろどんでん返しがやって来るはず…」と頭で分かっているつもりでも、その期待を見事に裏切られてしまうのだ。

■物語のような“どんでん返し”が自分の人生で起こるとしたら?

 本書の短編には、登場人物たちのどす黒い思惑があちこちでうごめいている。善と悪の間をゆらゆらと行き来しながら生きる登場人物たちの姿に自分を照らし合わせてしまうのは、きっと私だけではないはず。身勝手で欲深い人の心に触れると、つい自分の日常も見つめ直したくなる。

 人によっては「救いようがない」と思うかもしれないこれら5つの短編は、酸いも甘いも経験した大人の心にこそ響くものばかりだ。人生の最後に眺める景色を今はまだ想像もできないまま、そのストーリーを自分の人生に重ね合わせもするのだ。

文=古川諭香