「はい」「ええ」「そう」が相手に与える印象の違いって? 『妻のトリセツ』著者による『ことばのトリセツ』

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2019/8/20

『ことばのトリセツ』(黒川伊保子/集英社インターナショナル)

 コミュニケーション能力が高い人は、聞き上手だといわれる。話を聞くためには、相づちが欠かせない。しかし、気の利いた相づちというのは、案外むずかしい。例えば、「はい」という肯定の相づちがあるが、相づちに「はい」ばかりを使っていては、「この人、きちんと話を聞いてくれているのかな?」と疑心を抱かせてしまう。

 パッと思いつくところで、相づちには「はい」「ええ」「そう(なんですね)」の3種類がある。機械的に同じ相づちを使うのは疑心を抱かせるからと、これらをランダムに使えばいい、という単純な話ではないようだ。『ことばのトリセツ』(黒川伊保子/集英社インターナショナル)によると、音韻が脳に与えるイメージには、自然法則がある。「はい」「ええ」「そう」の異なる音韻は、それぞれ固有のチカラをもっている、というのだ。

 心理学の世界に「ブーバキキ効果」というものがある。さて、2つの吹き出しを、頭に描いてもらいたい。マンガのセリフを囲む、あの吹き出しだ。ひとつは、雲形のモクモクとした吹き出し、もうひとつはトゲトゲの爆発したような形の吹き出し。雲形は主に柔らかいセリフで用いられ、爆発形は叫ぶときに用いられる。ここで、あなたに質問である。

この二つの図形は、とある国で、ブーバとキキと呼ばれる二つの図形です。あなたはどちらがブーバで、どちらがキキだと思いますか

 この実験は1929年にドイツの心理学者ヴォルフガング・ケーラーが提唱して以来、多くの心理学徒が実証に挑んでいるが、実に98パーセントほどの被験者が、同じ答えを出すといわれている。しかも、被験者の母語や年齢によらない。

 あなたの答えは、雲形が「ブーバ」、爆発形が「キキ」ではなかっただろうか。

 本書は、これを偶然の結果とは考えない。ブーバは、Mの口腔形を成す。ヒトは、人生で最初に発音する子音は、M音である。世界中の赤ちゃんは、おっぱいをくわえる。そのまま、鼻腔を鳴らして「m m m」という声を出す。世界中の母親は、M音で呼ばれている。欧米語ではmama(ママ)かmanma(マンマ)かmammy(マミー)。中国語もロシア語もスワヒリ語もmama(ママ)。Mはおっぱいをくわえたときの、甘くまったりとした感触を想起させるチカラをもつ。

 他方、キキのK音は、喉をかたく閉じ、強い息をぶつけて出す、喉の破裂音である。硬く、強く、スピード感があり、ドライなイメージを想起させるチカラをもつ。

 ここで、冒頭の相づち「はい」「ええ」「そう」に話を戻す。

 本書の内容を要約すると、「はい」は、肺の中の空気を一気に排出することで「静かに、あっという間」を脳に感じさせるハに、前向きの強いベクトルを作り出すイで成る。「電光石火であなたのもとに」という語感をもっている。迷いのない忠誠心を示すことができるので、「はい」と答えてもらった相手は安心感を抱く。

「ええ」は、音の発言点(音が響く場所)が前(唇側)にあるのに、筋肉の緊張点が喉の奥にあり、この2点の距離が最も遠い母音であるため、「距離の遠さ」や「時間の長さ」を感じさせる。相手は「ええ」から、遠くはるかな視点、客観評価のような肯定の意味合いを汲み取る。

「そう」のソは、息の噴射が少なく、息の半分は口腔内に留まって回り込み、温められる。ソウには、爽やかさと温かさが共存しており、相手は包み込まれる優しさを感じる。

 では、以上を踏まえ、あなたが相手をなだめるときには、相づちをどのように組み合わせるだろうか。

(1)「はい」「ええ」「わかりました」「そうですね」
(2)「はい」「ええ」「わかりました」「はい」

 答えは、(1)である。

 ちなみに、コミュニケーションが下手な人は、「でも」「だって」「どうせ」「だからぁ」などと、“ブレーキのD音”を多用する。本書の考察は深く、事例は多岐にわたる。語感で相手に与える印象が変わることがわかれば、コミュニケーションでの事故がグッと減るかもしれない。

文=ルートつつみ