SNSで手頃な男と処女喪失のはずが…!? 滋賀県を舞台に描かれる心がヒリヒリする短編集

文芸・カルチャー

2019/8/17

『県民には買うものがある』(笹井都和古/新潮社)

 リアルの友人のフォロワーが3万人だった…! なんて事態も珍しくない今日この頃。SNSやTwitterは、一部の人間にとって、生活に欠かせないものとなっている。行き場のない愚痴や日常の出来事、そして心の「空虚感」を埋めようと、せっせとつぶやく不思議な行為。誰かに「いいね」をもらうことで満たされはするが、基本は雑多な情報が四方八方から飛び交うTwitter。思わぬ形でパンチを食らうこともある。

 第15回「女による女のためのR-18文学賞」友近賞受賞作の作品『県民には買うものがある』(笹井都和古/新潮社)は、そんなSNSに依存気味の人間にとっては、心がヒリヒリするような切実さや痛みを伴う短編集だ。

 表題作の「県民には買うものがある」は、受験を終えた滋賀県の女子高生2人が、卒業間際に、今では寂れてしまったSNS「滋賀県コミュニティ」で、処女喪失のため、適当な男を探す物語である。

「JKでヤってないってさぁ、それだけで絶対なんか取りこぼしてるもん」

 とぼやく2人は、焦燥感に駆られ、大胆な行動に出る。SNSで「一人の素敵な男性」ではなく、地元に長くいて、車とお金を持ち、趣味がなく暇な、自分たちを「女子高生」という記号でしか見ない若い男を物色する。

 主人公がSNSで出会ったのは、25歳の“滋賀で干からびきってしまった男”。いつもイオンで買った薄手のパーカを着て、文化的な流行りものを身につけられる世界線にいない会社員だ。驚いたのは、彼女は、ホテルのサービスタイムが始まるまでのわずかな時間、琵琶湖を見て時間をつぶそうと誘う彼と、週一のペースで会い続けたにも関わらず、感性を豊かなものに変えていったことだ。

<感受性に訴えかけるようなものがなさすぎて、一人でいるとカラカラに乾いてしまいそうになる>場所で暮らす彼女は、セックスを繰り返すことで、心を動かし、日常に彩りを与えることが何よりも大切だった。

 それよりも彼女を苦しめたのは、インターネットの中で自分を誇示しようとする男たちのつぶやきである。彼女は大学入学後に付き合った、京都出身のオシャレな恋人が、「こいびとは、湖の近くに住んでいる」などとポエミーなツイートをしている事実を知ってしまい、ひどく落胆するシーンがある。(※ちなみに彼女は滋賀県内でも琵琶湖から離れた場所に住んでいるので、ツイートは勘違い)。琵琶湖を愛する女子高生が、生きている実感を得るため、SNSを使って手っ取り早く満たされていく一方で、Twitterで男ひとりの在りようを彩るために、自分が「使われた」と憤るシーンは、地方出身者のひとりとして、同情すると同時に、心が痛んだ。

 本書は他にも、美術大学の内向的な男子学生が、pixivでアメリカの女児向けアニメ「レインボー・ポニー」のR18イラストを描いていたところ、さらにエロティックな作品を描くはめになる「ポニー、虹をごらん」や、フォロワー1万人超えにもかかわらず、リアルではぼっちの予備校生が、ある目的を隠し持った人気講師に近づかれる「シー・イズ・メイ」などが収録されている。どの物語も官能的で生々しく、思わず小さな悲鳴をあげそうになったほど。だがその反面、登場人物が皆、SNSを通して人と繋がり、時には手痛い失敗を経験しながらも、強くなっていく様子に目が離せなくなった。自分自身、スマホとの攻防は今日も明日も続いていく。私はこの小さな機械にどんな温もりや繋がりを求めているのか、今一度見直したくなる、切実な短編集だ。

文=さゆ