「すいか」など人気ドラマからの名台詞も収録! 木皿泉の創作の秘密が明かされる

文芸・カルチャー

2019/9/1

『ぱくりぱくられし』(木皿泉/紀伊國屋書店)

 本やテレビドラマの中に登場する言葉に、勇気をもらったり元気づけられたりした経験がある人は多いのではないだろうか。登場人物に自分の気持ちを重ね、辛いことがあったときなどに背中をそっと押してもらったような感覚になることは少なくない。「木皿泉」はユニット名で、夫婦共同で脚本を書いている。2人がつくりだす世界に共感する人は多く、私もそのうちの一人だ。特に「すいか」というドラマは大のお気に入りで、何度も繰り返し見ては元気をもらった。そんな木皿泉の作品の中に登場する名台詞とともに、夫婦のエッセイが綴られているのが『ぱくりぱくられし』(木皿泉/紀伊國屋書店)だ。

 昨今特に若い世代に欠かせないSNSについて言及している「ネタ消費」。SNSにアップするネタを手に入れるために買い物をしたり旅行に行ったりする人が増えているという。SNSのために「ネタを購入する」というのだ。中には暴行動画をアップして捕まった中学生もいて、犯罪の動機はただたくさんの人に見てもらいたかっただけと語ったという。著者はそこまでして認められたい自分の存在について疑問を呈している。SNSで自分のことを発信し見てもらうことで「認められたい」という欲求を満たしている人が実に多い。これは、他者の承認を得ずには自分の存在を自身が認められないという寂しい状況ともいえるだろう。ドラマ「すいか」の中には次のようなセリフがある。

「私みたいなものも、居ていいんでしょうか?」
「居てよしッ!」

 これは、主人公が同居する大学教授に質問するシーンで使われたセリフだ。このセリフに勇気付けられた人は多いようで、著者のサイン会でもこのセリフを書いてほしいと頼む人が多いという。特にテレビの影響は大きいため、画面を通して自分に言われているような気分になるのだろう。SNSなどの媒体を通じて間接的に得られるものに、果たして意味があるのだろうか? 自分でどうにかしなくてはと焦るのではなく、何か目に見えない大きなものに身を委ねることによってはじめて、自分の存在意義を感じられるのではないかと著者は語っている。

 また、著者夫婦はネット利用をすべてやめてしまったとも本書に書いている。携帯電話は夫婦間の連絡用だけ、メールは使わず仕事用には自宅電話とファックスだけという環境だ。自宅電話は留守電機能がないため著者夫婦に連絡を取るのはなかなか難しく、昨今のSNS環境とは対極の生活だ。そんな中、著者夫婦が不思議に思っているのがインスタグラムやLINEのスタンプだ。写真だけ、もしくはスタンプだけで、繋がっていると思っている人の多いことに驚きを隠せないでいる。たとえば、インスタグラムの写真の場合、前述したようにネタ消費をしている例もあれば、写真である瞬間を作り出して撮影している例もある。これらを真実だと錯覚してしまうと、取り返しのつかない誤解を生み出してしまう恐れがあると指摘しているのだ。本当は繋がっていないのに繋がったと思い込んでしまうのはある意味寂しいことだろう。そのため、SNSは繋がっている気分を味わうためのものと割り切って使ったほうがいいのではないかと読者へ提唱している。

 本書には、エッセイごとに木皿泉作の名台詞が収録されている。

「女の人って、何言われたら嬉しいんだろ。何かないですかね、一発で決まるみたいな」
「お前の家賃はオレが払う」(『Q10』2話)

「持っているもの全部捨てたら、新しい自分になれるのかな?」(『セクシーボイスアンドロボ』8話)

「言った通りでしょう?何が起こるか判らないって。
これさえあれば、大丈夫なんて、そんなもの、この世にはないの」(『すいか』9話)

 思わずクスッと笑ってしまうものや、迷いや不安があるときに背中をそっと押してくれるものなどが多数収録されているので、木皿泉語録集として読むのも面白い。また、巻末には妻の幻のデビュー作「け・へら・へら」も収録されているなど、ファンにはたまらない一冊といえるだろう。

文=トキタリコ