火山岩の台地にできた「死にゆく町」と呼ばれる街…世界中の“ゴーストタウン”の美しい写真集

文芸・カルチャー

更新日:2019/9/19

『絶対に住めない 世界のゴーストタウン』(クリス・マクナブ:著、片山美佳子:訳/日経ナショナルジオグラフィック社)

『平家物語』は諸行無常と盛者必衰をうたった。人の姿もその生活も絶えず変化する。しかし、人々によってつくられた街は、人が去っても、残骸となってか細く当時の様子を語る。廃墟が集まってゴーストタウンとなる。ゴーストタウンは眠ったように息をし続けている。

 ゴーストタウンの探訪は、日々の生活に縛り付けられている私たちにとって現実的ではない。私たちの代わりに、写真集がゴーストタウンの魅力を切り取り、届けてくれる。

 例えば、『絶対に住めない 世界のゴーストタウン』(クリス・マクナブ:著、片山美佳子:訳/日経ナショナルジオグラフィック社)は、世界中のゴーストタウンを探訪し、かつて住んでいた人々の痕跡が染み付いた特別な場所を収録している。

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 ヨーロッパの章を覗いてみよう。ヨーロッパはほかの地域と比較して、地理的な変化に富み、歴史的にも社会的にも多様だ。人々は、時として意外な所に街をつくる。例えば、火山岩の台地の上。イタリア、ビテルボ県にある、地元では「ラ・チッタ・ケ・モアレ(死にゆく町)」とも呼ばれる「チビタ・ディ・バーニョレージョ」だ。地震による被害や自然侵食が原因で18世紀から衰退し、人口は時に12人程度にまで減じるが、年間を通じて人影が見られる。人のたくましさが感じられる様相だ。

 ゴーストタウンは、近現代も生まれ続けている。例えば、中南米チリの「チュキカマタ」は、驚くほど現代的な姿を残している。ここは、世界最大の露天掘りの銅山労働者のために建設された町だが、大気中に危険なレベルで有害粉塵やガスが含まれることがわかり、2007年に放棄された。写真では、まさにこれから人が移住してきそうに見える。ここを去らざるを得なかった人々の後ろ髪引かれる思いが汲み取れる。

 東アジアに目を移すと、目覚ましい発展を続ける中国でもゴーストタウンが誕生し続けている。本書によると、中国では2000年から2010年の間だけで総計2万3700平方キロメートルに及ぶ都市開発が行われたが、都市人口減少によって、ニュータウン「テムズタウン」(上海、松江新城)のような実質のゴーストタウンが各地で増加している。

 ちなみに、日本からは長崎の端島、別名「軍艦島」が登場している。1974年の閉山に伴って放棄されたこの艦は、今でも威風堂々とした姿を見せている。

 最後に、捕鯨に関連するゴーストタウンを紹介したい。商業捕鯨が解禁されて間もない日本だが、かつてクジラは世界中で捕獲されていた。放棄された捕鯨基地は、今でも南極や周辺諸国に残る。サウスジョージア島のリース港は、1909年から1965年の間に、実に4万8000頭のクジラを解体した。この風景からは、人々の生、あるいは生活への執念のようなものを感じ取ることができる。

 ゴーストタウンは人類史の貴重な史料であるとともに、教訓でもある。人口減を続ける日本では、将来的に廃墟が増え、ゴーストタウン化・スラム化する街が増えるという予測がある。ゴーストタウンは、地形や気候の変化だけでなく、産業や経済情勢によっても誕生する。将来の日本の姿を決めるのは、ほかでもない、今を生きる私たちなのだ。

文=ルートつつみ