ちいさな苛立ち。ちいさな幸せ。感情のつみかさなった日常を切り取ったオムニバス

小説・エッセイ

2012/5/16

タイニー・タイニー・ハッピー

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:飛鳥井千砂 価格:651円

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不覚にも、泣いてしまった。
寝る前にベッドでなにげなく読みはじめ、終えたあとはぼろぼろと涙がこぼれだしてびっくり。かる~い気持ちで読み進めていたのに、知らないうちに琴線に触れられまくっていたようです。そんな、油断していると痛い目にあうこの小説、「タイハピ」と呼ばれるショッピングモールを舞台にした連作短編集です。

お話ひとつひとつは、特別起伏があるわけでも事件があるわけでもありません。タイハピで働く人たちを中心に、少しずつ重なり合ってめぐっていく、いわゆる日常のお話。

最初は特に、揺さぶられていたわけではないんですよ。1話1話が短いので、主人公たちに思い入れすぎるまえにお話は移っていく。だからなんとなく、お昼休みにお弁当を食べながら、いろんなひとのお話を聞いている気分なんです。でもだんだん、「あ、これはあの人か」「そういえばその後あの人はどうしたのかな」なんていうふうに日常がリンクしていって、全体の広がりを増していく。タニハピという場所に親しみを覚え始める。そうなったときにはもうたぶん、捕えられています。

日常を彩るのは大きな事件よりも、小さな感情の積み重ね。コップに水を注ぐのと同じ、というのはよくある表現ですが、それがあふれだす瞬間があったり、静かに震える瞬間があったり、だれしもそんなふうに小さく心を揺らしながら過ごすもの。そのなかの、さみしい、かなしい、なんかつらい、っていうネガティブな感情と、うれしい、たのしい、なんだか幸せだ、というポジティブな感情との両方が織り合って描かれているのがこの小説。だから具体的に「ここがよかった!」という場面や言葉があるというより、小説全体の空気に揺さぶられて泣いてしまった、理由なんてよくわからないけれど、という感じなのです。そしてその涙も、どちらかというとデトックスに近くて、そのまま静かに眠りに就くことができたのでした。

読んでよかったなあと、ちいさな幸せをたっぷり感じることのできる小説。すこし疲れていたりさみしかったりするひとに、おすすめです。


タイトルの「タイニー・タイニー・ハッピー」がショッピングモールの名前。作品にじんわり浸透しているコンセプトなのです