「読みながらぼたぼたと涙をこぼしていました」――文の向こうに絵が見えると大反響! 『線は、僕を描く』

文芸・カルチャー

公開日:2019/9/28

『線は、僕を描く』(砥上裕將/講談社)

 この6月に『週刊少年マガジン』(講談社)での漫画連載もスタートした『線は、僕を描く』(講談社)は、現役の水墨画家でもある砥上裕將さんが、ひとりの青年の再生を通して、水墨画の魅力を伝える小説。紙面の上に生み出される「線」の芸術が、青年の未来を変えていく。

 物語の主人公・青山霜介(そうすけ)は両親を交通事故で亡くして以来、自分の殻に閉じこもりがちになり、淡々と大学へ通うことで孤独感を紛らわしていた。そんな時、霜介は親友からアルバイトを頼まれ、巨大な総合展示場へ行くことに。ひょんなことから、そこで展覧会を行っていた水墨画の巨匠・篠田湖山に気に入られ、その場で「内弟子」になってしまう。そんな巨匠の振る舞いに反発した湖山の孫・千瑛(ちあき)からは、翌年の「湖山賞」という大勝負を持ちかけられ、霜介は半ば強引に水墨画の世界へと足を踏みいれることになっていく――。

 自らが心の中に作った“ガラスの部屋”に閉じこもり続けていた霜介。水墨画はそんな霜介の心情を相対化して見せ、彼に“命の存在意義”を教える。本作は、孤独な青年の再生物語でもあるのだ。

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「水墨画」は、私たちにとってあまり馴染みがなく、遠い世界の芸術であると思う人も多いかもしれない。しかし、本作の圧倒的な文章力に触れると、目の前に絵画が浮き上がり、水墨画の作品やその制作が間近に感じられるようになるから不思議だ。実際、水墨画に詳しくなかったという多くの人が、これまで知らなかった世界の美しさと奥深さに胸を揺さぶられている。読書メーターにはこんなコメントが多数寄せられている。

“黒と白だけなのに色づいて見える。水墨画の世界は、小説の世界に似ていた。こんなにも純粋な気持ちで読書できたのはひさしぶりだった。ただ目で文字を追うことに集中し、指先で紙の感触を味わう。新しい紙とインクの香りが鼻孔をくすぐり、頭の中がやわらかくとろける。文章の密度が心地よい。心が静かに凪いで、青山君たちの住む世界に没頭していく。”(りこ)

 本作を読み進めていくと、水墨画が画家の人生を映し出し、墨一色で心の繋がりと命の輝きを鮮やかに表現できる絵画であることを実感させられるのだ。

“今年のベスト級。水墨画という素朴なテーマが題材だが、それが物語の雰囲気を良い方向に作り上げている。ひとりの青年が水墨画と出会うことで、モノクロだった日常に彩りが増していく。描いているときの描写がどこまでも心地よく、頭の中に画が自然と思い浮かんでくる。”(ほたる)

“水墨画に関する表現力がとにかく素晴らしい。奥深さ、伝統文化の持つ力強さや安らぎを感じ、水墨画の美しい世界に私も一緒に触れている気分にさせられ、心が引き込まれてしまう。”(びびん)

 作中には、読み手が感情を揺さぶられるポイントも数多くある。

“読みながらぼたぼたと涙をこぼしていました。なんでだろう、悲しいのでもなく、嬉し涙でもなく、青山の水墨に、彼が触れる命の描写に、ただただ圧倒されていたのかもしれない。”(雅也-カヤ-)

“技術だけでなく、哲学的な生きることそのものに目を向けさせる水墨が、霜介の閉ざされた心を開き、解放していく過程が感動的だった。作品への集中、霜介の内省などはとても繊細で、読んでいて気持ちが慰められる。”(鳩羽)

“本を読んでいるのに、描いている姿を、筆の動きを感じ絵が見えてくる。そして心で見た絵に感動した。もう一度ゆっくりと読み返してまたその感動を味わいたい。”(雪だるま)

 水墨画は森羅万象を描く絵画。勇気を振り絞って引くその“一線”が、命の存在意義をも教えてくれる。現在YouTube上では書籍発刊にあわせて、作品内に登場する水墨画の春蘭と菊を著者の砥上さんが描く映像が公開中だ。

 画仙紙の上に描かれる作品には、果たしてどんな人生が込められているだろうか? そんなことにも思いを馳せながら、チェックしてみてほしい。動画を通じて水墨画がぐっと身近になったという人は、本書のページを開くことをおすすめしたい。