人はなぜ自殺するのか? 苦しいのに「助けて」と言えない人たちの心理

社会

公開日:2019/10/2

『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(松本俊彦/日本評論社)

 厚生労働省自殺対策推進室が平成31年1月に発表した「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」によると、過去10年ほどと比較すると平成30年の累計自殺者数は減少傾向だが、同年12月の前年比は増加している。事業の失敗や生活苦による自殺のほかに、子どもがいじめによって命を絶つというケースも多い。この国は人を助けることが難しくなっている。そう感じていたときに目に入ったのが『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(松本俊彦/日本評論社)だった。

 本書によれば、自殺を考えた人のうち、誰かに相談した人は全体の3割ほどだという。その中で友人や家族など近しい人に相談したのは2割程度だそうだ。これは厚生労働省の調査による結果をもとにしたものだが、自殺を考えるほど辛い状況に陥っても、多くの人はその事実を周囲に明かさないことになる。筆者の知人にも自ら命を絶った人がいるが、やはりそのような素振りはなかった。実際に家族や友人などを自殺で失った人の多くは、事が起こってから事実を知り、驚いたのではないだろうか。

 ところが、周囲が気づくことで必ず助けられるとは限らないようだ。自殺を考える人の心理として、周囲の助けがまったく目に入らなくなるのだという。死という方法以外に解決法を見出せなくなるのだそうだ。例えば「自分は周囲に迷惑をかけている」「自分さえいなければ皆幸せになる」といった思考に傾倒しやすくなる。支援を受けることでさらに自分を迷惑な存在と定義してしまう。つまり、周囲の「助けたい」という気持ちを汲むことができず、逆効果になる恐れも出てくるのだ。

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 周囲に助けを求められない人には「楽になってはいけない」という心理もあるという。個人的な意見を述べると、これは日本人らしい心理ではないだろうか。そして、実は周囲がこのような心理にさせてしまうことは多いのだ。

 追い詰められている本人が勇気を持って悩みを打ち明けても、それを聞いた人物が「甘えている」「誰でも大変な思いをしている」などと突き放すような意見しか返さなかったらどうだろうか? 相談する相手が必ずしも人生経験が豊富な人物とは限らない。あくまでその人の経験の中でしか回答できないわけで、中にはピントのずれた心ない言葉をかける人もいる。ところが、悩んでいる本人にとっては希望を失う言葉であり、心を閉ざしてしまうことになる。相談する相手によっては助かる道を塞いでしまうこともあるのではないだろうか。

 いじめに苦しむ子どもの場合は、大人とはやや事情が異なる。本書のアンケートによると、小学生と中学生の3割以上はいじめの相談を親にしている。誰にも相談しない子どもは3割弱。学校の先生は1割強という結果だ。周囲の大人に助けを求めたいという気持ちがはじめからないわけではない。何らかのきっかけから「信用できる大人はいない」と諦めの気持ちが強まり、言い出せなくなってしまうのだ。

 子どもは大人よりもさらに追い込まれやすいといえる。大人が行動してあげないと助からないことが多い。例えば転校などは手段の1つだが、親が動いてあげなければ無理なことだ。いじめによる自殺から子どもを救うには、初期段階でどれくらい適切な対処をしてあげられるかどうかが鍵になるのではないだろうか。

 本書は「助けを求められない心理」にはじまり、医療の現場や子どもと関わる現場、福祉・心理臨床の現場、民間支援団体の活動など5つのカテゴリーに分けて詳しく解説されている書籍だ。支援される側の心理だけでなく、支援する側の姿勢や二次性トラウマなどについても書かれている。一般の人でも十分参考になるが、何らかの形で人を支援する立場にある人や専門職に就いている人はより参考になると思う。

 この国は社会から一旦脱落してしまうと復帰するのが難しい。偏見も多く、それがさらに道を閉ざしてしまうのではないかと思う。だからこそ、人を助けるのは慎重に行う必要があるのだ。

文=いしい