入ったら二度と出られない――“不死身の男”“美青年探偵”クセの強い囚人たちが恐るべき監獄の謎に迫る!

文芸・カルチャー

2019/10/5

『時喰監獄』(沢村浩輔/KADOKAWA)

“入ったら二度と出られない”と噂される監獄が舞台の『時喰監獄』(沢村浩輔/KADOKAWA)。個性豊かな囚人たちによる痛快な長編小説が誕生した。

 舞台となる第六十二番監獄は、どの町からも遠く離れた、北海道の原生林を切り開いて建てられた煉瓦造りの洋風監獄。収監されれば二度と出られないという噂から〈黒氷室〉の異名で恐れられている。

 本作は物語の性質上、ネタバレなしの説明がかなり難しい。この物語の中心にはさまざまな「時間」がからみ合っている、とだけいっておこう。タイトルの時喰(じくう)の意味は、読み進めるうちに合点がいくはずだ。

 物語をかいつまむと、黒氷室行きとなった主人公・北浦(きたうら)を中心に、個性豊かな囚人たちが〈監獄に隠された謎〉に迫る内容である。作者は本格ミステリでの実力が評価されている沢村浩輔氏。しかし本作は徐々に黒氷室の核心に迫っていく“冒険”小説といったほうが近いだろう。

 本作の読後感としては、豪快な展開が続き、飽きることなく一気読みできるリズム感があった。とくに監獄の謎が明かされるクライマックスは、映像が目に浮かんできそうなほど登場人物たちが躍動的だ。

 魅力的な囚人たちの存在も、本書を語るのには外せない。黒氷室から3度目の脱獄をもくろむ赤柿(あかかき)はよく笑い、快活で、何かに挑むような目をもっている“不死身”の男。看守の犬となり、監獄内で傍若無人に振る舞う囚人がしらですら、一目置く存在だ。

 私立探偵だという御鷹(みたか)は浮世離れした美青年。色白の端正な顔立ちで、何事もソツなくこなし、ケンカも強い。ミステリアスな立ち振る舞いは、まるで少女漫画の王子さまだ。

 主人公的な立ち位置である北浦は情に厚く、まわりからの信頼が厚い。赤柿や御鷹にくらべるとキャラ立ちはあっさりとしているが、青臭い正義感を発揮して、監獄の謎をめぐる事件の渦中に押し出されていくことになる。

 黒氷室に突如現れた物語のキーパーソンでもある記憶喪失の男、敵役でありながら力強い存在感をはなつ冷酷無慈悲な典獄(監獄の長)・丹澤(たんざわ)、マッドサイエンティストな雰囲気をもつ監獄医・神崎(かんざき)など、本作にはアクの強い男性キャラクターが続々と登場する。女性読者であれば「どの男性が好み?」という話で、盛り上がるのも楽しいだろう。

 一方で、本作に女性の登場人物は一切登場しない。物語は人間関係の葛藤やトラブルといった寄り道をせず、監獄の謎を解き明かすことに終始一貫している。このシンプルで太いストーリー展開が、最後の1ページまでスピードを落とさないでいられる読みやすさに繋がっていることは間違いない。

 筆者もそのひとりであるが、監獄や囚人というアングラな響きに心をくすぐられたなら、迷わず手に取ってほしい1冊だ。

文=ひがしあや