子どもの読解力に警鐘を鳴らす『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の続編

ビジネス

2019/10/16

『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子/東洋経済新報社)

 近い将来、少なくない仕事がAIに奪われるといわれる。そのため、教育においては、AIができない、あるいはAIが苦手な能力を伸ばす必要性がうたわれている。そのひとつが「読解力」だといわれている。

 新井紀子氏は、2018年に出版した『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)で子どもの読解力不足を指摘し、数々の出版賞を受賞した。そして、このほど、続編となる『AIに負けない子どもを育てる』(東洋経済新報社)を上梓した。AIが苦手とする読解力を子どもたちが身につけるにはどうすればよいのか? そんな疑問にこたえる読解力アップの実践法が掲載されている。

 本書は、新井氏たちが考案した基礎的・汎用的読解力を測るリーディングスキルテスト(RST)の意義や目的、役割、実例や研究成果などに紙幅を割いている。

 RSTは、事実について書かれた短文を正確に読むスキルを、「係り受け解析」「照応解決」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」の6分野に分け、テストする設計がなされている。

 例えば、次の問題は「同義文判定」の一例だが、あなた、あるいはあなたの子どもは正答できるだろうか。

・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。

・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。

以上の2文は同じ意味でしょうか。

 答えは「異なる」だ。この能力は記述式問題の答え合わせをする上で欠かせないが、中学生の正答率は57パーセントに留まった。中学生の一部は、「(キーワードとなる語は)全部合っているのに…」と、意味が違うことが理解できないという。

 実は、AIは文をキーワードの群(AI用語では「bag of words(言葉がバラバラに放り込まれた袋)」)として捉え、解読しようとする。これを本書は「AI読み」と呼んでいる。本書によると、定型的なストーリーならばAI読みでもそれなりに追うことができるが、教科書などの“新しい知識を得るための文章”を正確に読むことは難しい。教科書などを正確に読むためには、文脈や行間を読める必要があるからだ。さらに、それ以前に文の作り(構文)を正しく把握したり、「と」「に」「のとき」「ならば」「だけ」など機能語と呼ばれる語を正しく理解したりして“行中”を読めることが必須となる。

 AIは、まだこれらの能力を得るまでに達していない。つまり、文脈や行間、行中を読める読解力こそが、AIに負けないための力となるのだが、本書がRSTを広く行った結果わかったことは、なんと“AIにとって難しいことが、多くの中高生にとって、それどころか大人にも難しかった”という衝撃的な事実であった。

 例えば、次のような難しい単語がなく、ごくシンプルな文が同義かどうかは、AI読みでは判別が難しい。

・誰もが、誰かをねたんでいる。

・誰もが、誰かからねたまれている。

 同義か否か。著者は、これをツイッターで投げかけてみたところ、7000人を超える回答者のなんと半数近くが同義だと答えた。誰もが誰かをねたんでいても、例えばねたまれる人が重複し、ねたまれない人が出てくる可能性があるため、この2つの文は同義ではない。

 本書によると、家庭環境や地域によって語彙量に相当の差があり、これが小学3、4年生あたりで本や教科書、板書の読み方に決定的な差を生む。続いて、機能語を正確に読める子どもとそうでない子どもを隔てることとなり、読解力の格差が広がっていくという。

 本書の中程には、RSTの体験版が6分野の計28問掲載されている。本書で読解力の程度を測り、読解力向上の助けにすれば、未来により希望を抱くことができるようになりそうだ。

文=ルートつつみ