外国人住民の数が日本人を超えたマンモス団地に住んでみた! 当事者として直面した問題は…
公開日:2019/11/28
筆者がかつて小金井市のマンションに住んでいた頃、ある時期から、毎回決まって回収されない「燃えないゴミ」が目につくようになった。大家さんが「プラゴミは分別してください」と日本語で張り紙をして、そのゴミをエレベーターホールに置く。
もしかしたら自分の出したゴミかと思い、透明のゴミ袋を眺めると、中には何やら中国語の文字のゴミが目立つ。日本では、住んでいる市区によってもゴミ出し分別基準が違う。日本人にとってもわかりにくいのに、外国人であればなおさらだろう。
小さなマンションでさえ、こんなトラブルはたびたびある。これがもしマンモス団地で、しかも、「半数以上が外国人」だとしたら、いったいどんなことになるのだろう?
そんな興味から手にしてみたのが、『芝園団地に住んでいます 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか』(大島隆/明石書店)である。
■首都圏にある「半数以上が外国人」の団地、その実情は――
UR賃貸住宅の「川口芝園団地」(埼玉県川口市芝園町)は、総戸数2454戸で約5000人が暮らすマンモス団地なのだが、その「半数以上が外国人居住者」ということで、マスコミからも注目されている。
本書は、そんな芝園団地に実際に居住を続けた、朝日新聞社記者である著者によるルポルタージュだ。
住んでみてわかったのは、日本人住民数2448人(49.6%)に対して外国人住民数2491人(50.4%)の構成比であること。日本人は70代以上の高齢者が多いこと。外国人の8割は中国人で、そのほとんどが20代~30代のIT技術者(正規の在留資格あり)とその家族であること。大半の外国人は自治会に参加していないこと、などだ。
一方で、著者には気になっていたことがあった。それは、同団地についてリサーチをしていた際にネットで散見した、「治安が悪化しているらしい」「ゴミや騒音など問題が多いらしい」といったネガティブな書き込みの真相だ。
しかし、長年団地に住む人たちに聞いてみると、「治安の悪化」は実際のところ過去にも今にもなかったことが判明する。また、ゴミの分別などについては、中国語の張り紙やパンフレットを配布することによって、既に問題は解決していることがわかったという。
■他人事ではない? 外国人とコミュニティを作る必要性
それでもこの団地がマスコミから注目されているのは、今後の日本社会が迎えるであろう「課題先進地」だから、と著者は記している。
多数派になりつつある外国人住民たちと、少数派の高齢者を中心とする日本人住民たち。この2つのコミュニティが、「共存」ではなく、いかに「共生」できるか。そのノウハウはやがて、日本の他の多くの場所でも必要となる可能性が高いという。
ここでいう「共存」とは、トラブルなく過ごすことで、そこに積極的な交流はない。 一方の「共生」とは、ともに助け合いながら生きるという意味で、より密なコミュニケーションが必要だ。
自治会とボランティア団体が協力して中国語&日本語講座を開催したり、自治会主催の年一度の大イベントである「ふるさと祭り」の運営に外国人を誘ったりと、さまざまな努力を重ねている様子が、本書には描かれている。
厚生労働省によれば、2018年10月末現在で、外国人労働者数は146万463人で、過去最高を更新したという。その数は今後も増えていくことが予想されている。
外国人といかに「共生」するか。どこに住んでいても、近い将来誰もがそんなテーマを身近に抱えることになるかもしれない。その備えとして、本書は大いに役に立つだろう。
文=町田光
この記事で紹介した書籍ほか

芝園団地に住んでいます : 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか
- 著:
- 大島 隆
- 出版社:
- 明石書店
- 発売日:
- 2019/10/04
- ISBN:
- 9784750348940
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