毎日のちょっとした習慣でより自由に生きられる――人気小説家・小川糸さんの「暮らしの根っこ」とは?

暮らし

2019/12/8

『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ』(小川糸/扶桑社)

「自然に、無理せず、毎日を丁寧に暮らす」。忙しい日々を過ごす中、昨今このような生き方が見直されているようだ。仕事や育児に追われて栄養バランスの整った食事を作るのが難しい、部屋に花を飾る心の余裕がない、という人は実際多いだろう。ただし、そんな駆け抜けるような毎日の中でも、ほんの少し立ち止まってホッとする時間を持ってみてはどうだろうか。

 本書『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ』(小川糸/扶桑社)の著者・小川糸さんを、ベストセラー小説『食堂かたつむり』の作者として知る人は多いのではないだろうか。柔らかい小説の世界観、丁寧な料理シーンなど、読むだけでほっこりとした気分にさせてくれる物語の紡ぎ手。そんな小川さんの日々の習慣や愛用品を紹介しているのがこの本だ。

 本書の冒頭の言葉が胸に刺さる。

自分にとって必要な行いを習慣化することで無駄を省き、慣れ親しんだ愛用品を持つことで、自分自身がラクに、自由になれる。
そのような暮らしの根っこがあれば、ちょっとのことでは自分を見失いませんし、困ったこと、大変なことに直面しても、それに左右されず、いつもの自分のまま朗らかにいられるようになりました。

 小川さんがこう感じるようになったのは40代になってから。いろいろな経験をし、いいものとの出会いもある中、自分にとって「本当に必要なもの」が何か分かるようになったという。

 そんな小川さんの習慣の一つとなっているのが「欲張らずに余白を残す」こと。仕事も家事も人間関係も、自分の許容範囲を超える量は抱え込まないように意識しているそう。欲張って予定を詰め込んでしまうと時間に追われることになり、結局仕事のクオリティーが下がってしまうことになりかねない。フリーランスだからこそできるのかもしれないが、その潔さにはハッとさせられるものがある。仕事も友達との約束も、つい欲張りになってスケジュールを埋めてしまいたくなることもある。しかし、自分のペースを知り無理をしないことで、自分らしくいられる時間を過ごせるのではないだろうか。

 また、体のメンテナンスも毎日の生活にうまく取り込んでいる小川さん。ポイントは、体調を崩す前に行う「先取り体調管理」だという。風邪をひかないように彼女が心がけているのが、とにかく体を冷やさないこと。寒くなってきたら、足首、手首、首と「首」と名のつく箇所を温めることで風邪を予防していると話す。特に、足元の冷えを防ぐために靴下の重ねばきや室内ブーツ、湯たんぽ、カイロなどを利用してポカポカ生活を送っているそうだ。もちろん、外側からのケアだけでなく、体を芯から温めてくれる「ショウガのはちみつ漬け」なども手作りしているという。

 実は彼女、日本とドイツの2カ所に生活の拠点を持っている。もともとは、自然と都市のバランスの良い環境に惹かれ毎年夏をドイツで過ごしていたのだが、縁がつながりドイツで暮らすことに。実際にドイツで生活するうちに、ドイツ人の暮らしぶりが自分にも合っていると感じるようになったそう。お金をかけなくても幸せになれる、物を大切に長い間使う、しっかり休んでしっかり働く、日々の暮らしに花を取り入れるなど、今の小川さんの習慣につながることの多くをドイツで学んだそうだ。また、ドイツで出会った習慣の一つが「サウナ」。汗をかいたら中庭で休憩して持参したフルーツを食べ、再びサウナへ。そんなゆっくりとした時間が、彼女の作品にも影響を与えているのではないだろうか。

 本書には他にも、小川さんの定番の家庭の味や、着こなし術、人との付き合い方などについてのエッセイがたっぷりとちりばめられている。美しい写真とともに、彼女の愛用品も多数紹介されていて、私自身、気になって手にしてみたいと思う品がたくさんあった。物はそれほど多く持たなくてもいいので、自分が使ってみて本当に心地の良いものを選びたいという思いは共感できる。さっそく、数種類のお茶を揃えて、毎日の生活にお茶の時間を取り入れることから始めてみようと思う。

文=トキタリコ