歌舞伎町の(まるで)風紀委員長? 街の「変わった人」に直撃、心が壊れる恐怖を覗いてみると…

社会

2019/12/5

『リアル精神疾患ルポ 僕らはみんな病んでいる』(「裏モノJAPAN」編集部:編/鉄人社)

 近ごろはうつ病やパニック障害といった精神疾患への理解が広まりつつあり、以前よりもメンタルクリニックへ足を運びやすくなってきた。だが、「あなたは精神的に病んでいますか」と尋ねられたら、首を縦に振る人は少ないのではないだろうか。心の病は身近になったが、私たちは「自分は大丈夫だ」と思っている。だが、『リアル精神疾患ルポ 僕らはみんな病んでいる』(「裏モノJAPAN」編集部:編/鉄人社)を開くと、その自信は揺らぐだろう。心の病は、私たちが思っている以上に、誰にでも起こり得るものなのだ。
 
「変わった人」と一括りにされやすい人々の話に耳を傾けると、人間の心のバランスが壊れてしまう、その一端が見えてくる。

■新宿歌舞伎町の風紀委員長・A美さんの心に迫る

 繁華街には、その街の有名人ともいうべきクセの強い人がいるものだ。新宿歌舞伎町の区役所前で大声を出し、歩きタバコや歩きメールをしている人に注意する三つ編み姿のA美さんもそのひとり。

 推定年齢40代後半。背中にリュックを背負うA美さんは時に下品な言葉を交えながら、無灯自転車や2人乗りについても注意する。その姿はまるで風紀委員長のよう。A美さんのことは多くの人が知っているが、誰も“素性”は知らない有名人だ。

 本書では、彼女の1日に密着。すると、A美さんは人通りが少ない場所では無口であり、あたり構わず大声を発しているわけでないことが分かった。

 さらにA美さんは自身の半生を告白する。聞くと、6年前に上京し、ピンサロ嬢やスカウトの仕事を経た後、路上生活者に。その時に自称24歳の男性に声をかけられ、彼に金銭を貢ぐようになった。だが、男性が行方不明になってしまうとA美さんは生活保護を受けるように。風紀委員活動が始まったのは、この頃からだという。もしかしたら彼女は歌舞伎町の風紀委員長になることで、自分の生活を支えてくれた区役所に恩返しをしているのかもしれない…。A美さん自身の口から語られる自分史を知ると、彼女を見る目が変わるだろう。

 私たちが「変わった人」と認識している人々、その言動には彼らなりに「芯」のようなものがあるのではないかと思わされるのだ。

■誰しもが病名のない病気を持っている?

 病名がつくほどではないが、自分って「ちょっと変かも」と思ったことがある方は意外に多いはずだ。本書には、「スマートフォンの充電が満タンじゃないと外出できない」「恋人にGPS追跡できるアプリを入れさせている」など、個々の“変な自分エピソード”も多数収録されている。

 中でもユニークなのは、商品名に「午後」や「夜」などの時間帯がつけられた食品を避ける男性の話。なぜならば、記されている時間帯以外に口にするとムズかゆさを感じてしまうため、避けているのだという。この感覚がなんとなく理解できる方もいるかもしれない。

 個人の体験であるはずなのに、読めば読むほど、「誰でも、自分でも心の病になり得るのかも」と感じる本書。そういえば筆者も、エグい惨殺事件が描かれている小説をワクワクしながら読むとき、自分の歪みを自覚し、気付かなかった自分の嗜好にゾっとすることがある。もしかしたら、私たちはみな、病名のない病気を抱えているのかもしれない。読後のあなたはそれでも「私は大丈夫」と言えるだろうか。

文=古川諭香