「いいね!」のためなら何でもやります。窓際部署のアラサーOLとドS上司が大奮闘――『#誰か『いいね!』を押してくれ』

文芸・カルチャー

更新日:2020/5/11

 菜々美の場合は、サエない自分を特別な存在に変えるための場所としてインスタグラムを選んだ。冬真の場合は、社内の派閥闘争での敗北と恋人との破局のダブルパンチで受けた心の穴を埋めるため、インスタグラムを開始した。

 誰かに認められたい、誰かに味方されたい、誰かに好かれたい、誰かにちやほやされたい。だけど現実生活でそれを充たしてくれる誰かはいない――。

 そんな心の飢餓感が彼らをインスタグラムへ向かわせて、「いいね!」を獲得することで他者とつながろうとする。

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 互いの正体を知らないまま、2人はインスタを介して交流する。それと呼応するかのように現実でも仕事を通して関係が変化していく。冬真は自分のアイデンティティを保つためにインスタグラムをしている自分に気がつき、菜々美は“特別”にこだわっている自分のコンプレックスに向きあう。

 本質的にはヘヴィなテーマを明るく、軽やかに展開させる星奏節は本作に於いてますます冴えわたっていて、過去作のキャラクターたちが登場するのもファンには嬉しい。「ミモザ・プディカ」を舞台にした新シリーズの開幕であり、作者の新たな代表作となるであろう期待大だ。

文=皆川ちか

『#誰か『いいね!』を押してくれ』作品ページ