『ばらかもん』に『さらざんまい』…13話以下で完結! 大満足! なおすすめ一気見不可避アニメ10選

マンガ

更新日:2020/3/2

 年始に何か予定は入れているだろうか? もし、1日は空いている…2日くらいは空いている…というのなら、空いている時間にサクッと観られるワンクールアニメの鑑賞をおすすめする。この中で紹介するのは、全11話~13話という短さでありながら、いずれも十分に楽しめるアニメばかり。通常のアニメなら1話あたり24分ほどなので、ワンクール観ても、おおよそ5時間ほどで観終わる計算になる。紅白歌合戦をみんなで楽しむのもいいが、これから紹介するアニメを一人で堪能して過ごすのも1つの選択肢として存分に推したい!

※この作品レビューには該当アニメのネタバレを含みます。

あの芸能人も驚愕した! 2010年代を代表するダークファンタジー『魔法少女まどか☆マギカ』

総話数:12話

advertisement
『魔法少女まどか☆マギカ公式ガイドブック you are not alone.』(Magica Quartet:原作、まんがタイムきらら:編/芳文社)

 2011年に放送されたテレビアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』。タイトルのイメージや、蒼樹うめの描く可愛らしいキャラクターデザインからは、全く想像できない意外すぎるストーリー展開に、放送当時から大きく注目を集めたアニメーションだ。第15回文化庁メディア芸術祭の大賞に選ばれ、ほかにも、星雲賞、アニメ&マンガ大賞など、数々の賞を受賞。その高い評価はアニメ業界にとどまらず、東野幸治、今田耕司、おぎやはぎなど、芸能人の間にも広がり、多くの人を虜にした2010年代を代表する作品の1つである。

 見滝原(みたきはら)中学校に通う、ごく平凡な中学生二年生の女の子・鹿目(かなめ)まどかは、不思議な夢を見る。夢の中では、ある少女が魔法を使って何かと戦っていた。翌朝、いつものように学校へ行くと、夢の中で見た少女と瓜二つの女の子・暁美(あけみ)ほむらが転校してきた。放課後、夢ではなく現実に魔女の結界に迷い込んでしまうまどか。危機に陥った彼女を助けたのは、魔法少女を自称する巴(ともえ)まみだった。魔法少女のまみと、謎の生物・キュゥべえから、魔法少女とは何か、魔女とは何かを聞かされ、魔法少女にならないかと、まどかは勧誘を受ける。魔法少女になるか迷うまどか。魔法少女になるとどんな願いでも叶えられるが、その一方で、キュゥべえとの契約の中には、隠された残酷な仕組みが存在していた。

『魔法少女まどか☆マギカ』は、各クリエイターの才能が奇跡的に融合したことで生まれた、傑作アニメだ。『物語』シリーズを手掛けてきた新房昭之監督のケレンみ溢れる演出もさることながら、アニメ作家ユニット・劇団イヌカレーによる異空間設計がこの作品のダークな雰囲気の世界観を作り上げている。特に、魔法少女が魔女の結界に入っていくシーンは、まるで絵画の中に迷い込んでしまったかのような奇妙な没入感を味わえる。ここに梶浦由記の幻想的な音楽が加わることで、さらに作品世界の不思議な魅力が強化されていく。

 極めつきが脚本家・虚淵玄が紡ぎだす、先の予想できないストーリー展開だ。シリーズの途中までは、いわゆる「魔法少女もの」のお約束で話が進むが、第3話で「え? これってありなの???」と思わず呆然としてしまう、単なる「魔法少女もの」ではまずあり得ないような出来事が起こる。中学生の女の子がきゃっきゃっする、ほんわかしたお話だと思っていた視聴者はここで度肝を抜かれ、以降、話がどう転がっていくのか全く予想できなくなる。

 ファンタジーにSFを合流させ、最終的には、聖書で描かれる神話のような黙示録的な展開が混ざってくる。いろいろなジャンルを複合させることによって、『魔法少女まどか☆マギカ』は展開が読めない作品となっているのではないだろうか。

 もし、「魔法少女? そういう子供向け作品はちょっと……」と思っているなら、本作はそういう人こそ観るべき作品とだ! と推したい。通常のアニメでは味わえない、トップクリエイターたちによるハイレベルな総合芸術を見せつけられ、圧倒されること間違いなしだ。

スチームパンクの世界で描かれる「恐怖」と「勇気」の物語『甲鉄城のカバネリ』

総話数:12話

『甲鉄城のカバネリ』(吉田史朗:漫画、カバネリ製作委員会:原作/マッグガーデン)

『甲鉄城のカバネリ』は、スチームパンクの世界観をベースに、未知なる敵と戦う人々の奮闘を描いたファンタジー作品。アニメ制作はWIT STUDIO、音楽は澤野弘之、そして監督は荒木哲郎が務めており、『進撃の巨人』のスタッフと通じるところが多い布陣であり、その戦闘シーンや迫りくる敵の迫力もうなずける描写だ。全12話という短い話数とは思えないほどの重厚な世界観とストーリーを楽しむことができるので、一気見を終えたときの満足感は大きいはず。

 作品の舞台は、近世から近代への移行期。世界中に突如として現れたカバネと呼ばれる怪物によって、極東の島国・日ノ本の民もその脅威に怯える日々を過ごしていた。カバネに噛まれるとウィルスに感染し自らもカバネになってしまうのだ。日ノ本の民は、「駅」と呼ばれる砦を築き、カバネから身を守っていた。そんな中、顕金駅(あらがねえき)で生活する主人公・生駒(いこま)は、カバネの硬い心臓皮膜を貫く「ツラヌキ筒」という武器を開発し、カバネへの復讐を考えていた。生駒はかつて妹をカバネに殺され、救えなかったことへの強い後悔と、カバネに対する激しい怒りを抱えていたのだ。そして、あるとき、顕金駅に装甲蒸気機関車が突入し、その機関車に張り付いていたカバネが駅の中に一気に雪崩れ込んできた。生駒はツラヌキ筒で、侵入してきたカバネを撃破することに成功するものの、カバネに腕を噛まれ、ウイルスに感染してしまう。

『甲鉄城のカバネリ』で描かれているのは、人間が持つ「恐怖心」と、それに立ち向かう「勇気」だ。上記のとおり、カバネに噛まれると、噛まれた人間もまたカバネとなる。いわゆる、ゾンビもののセオリーと同じだ。ゆえに、カバネに噛まれた疑いのある者は、たとえカバネになっていなくても、容赦なく殺される。カバネへの恐怖心から、正常な人間も平気で殺してしまう世界なのだ。

 つまり、カバネはウイルスを感染させる存在であると同時に、人々の間に恐怖心を感染させていく存在でもある。しかし、そんなカバネに立ち向かっていく生駒の姿を通して、周囲の人々は自分の中の恐怖心と戦う強い心を持ち始める。カバネが恐怖を伝える象徴なら、生駒は勇気を伝える象徴なのだ。この「恐怖」と「勇気」の間で揺れる人々の姿を描いているのが『甲鉄城のカバネリ』の作品としての特徴と言えるだろう。

 特に第1話は、緊迫感溢れる音楽、臨場感のある演出、そして巧みな脚本があいまって、最初から最後までとにかく息のつまる展開が続き、見ているこちらもカバネと戦う生駒の強い気持ちが伝播してくる。『甲鉄城のカバネリ』を観れば、キャラクターたちが勇敢に、自らを奮い立たせて戦う姿から勇気をもらうことができるはずだ。

ミステリー好きなら外せない本格ミステリー作品!『すべてがFになる-THE PERFECT INSIDER-』

総話数:11話

『すべてがFになる』(森博嗣/講談社)

 もし、あなたがミステリー好きなら『すべてがFになる-THE PERFECT INSIDER-』(以下、『すべてがFになる』)は、探偵心や知的好奇心を満たしてくれるものになるだろう。『すべてがFになる』は、シリーズ累計390万部を超える人気小説を原作に制作されたアニメ作品。

 西尾維新をはじめ、数々の実力派作家を輩出してきたメフィスト賞の第1回受賞作が、小説家・森博嗣のデビュー作であるこの『すべてがFになる』だ。工学博士の森博嗣だからこそ描ける、緻密に組み立てられた理系ミステリーを楽しめる点が本作最大の特徴と言える。

 完全に周囲から隔離されたとある孤島の研究所。その閉鎖空間で15年間、少女時代から生活しているのが、天才プログラマ・真賀田四季(まがたしき)だ。四季は14歳で両親を殺した過去を持っている。天才プログラマであり、人殺しでもある、異質な存在だ。那古野大学准教授・犀川創平(さいかわそうへい)と大学生・西之園萌絵(にしのそのもえ)は、そんな天才の姿を一目見ようと、彼女の研究所がある島を訪れていた。しかし、彼らは研究所の中で、とある不可解な事件に遭遇することになる。長い間閉ざされていた四季の部屋のドアが唐突に開き、中から人形が出てきたのだ。一同は人形だと思っていたが、実はそれは人間の死体で、しかも、その様相はウェディングドレスを身に纏い、両手両足を切断されているという、猟奇的なものだった。完全なる密室の中、いかにして犯行が成立したのか、犀川はその謎を1つずつ解明していく――。

『すべてがFになる』は、ミステリーとして十分楽しめる作品だが、同時に、キャラクター同士の会話劇も魅力の1つ。例えば、主人公の犀川准教授と、その彼に好意を抱いている萌絵との会話は、どれも軽妙で心地がよいものばかりだ。萌絵が犀川の研究室に入ってくるなり、まだ何も言っていないのに「西之園くん、僕に言いたいことがあるんだね?」と、まるでエスパーのように気持ちを汲み取って会話を始めるシーンがあれば、反対に、萌絵が好意もしくは嫉妬で放った言葉を、犀川が汲み取ってくれないシーンもあり、2人のすれ違い具合がなんとも楽しい。

 一方、四季という天才と犀川の、普通なら理解できないような哲学問答も示唆に富んでおり、興味深いものばかりだ。例えば、犀川の「どうしてご自分で自殺されないのですか?」という質問に対し、四季は「たぶん、ほかの方に殺されたいのね。自分の人生を他人に干渉してもらいたい。それが愛されたいという言葉の意味ではありませんか?」と返答する。『すべてがFになる』には、こうした「人間とは何か?」「愛とは何か?」と考えさせられる言葉がいくつも出てくる。その難解な思想も含め、ある種のミステリーとして機能している点が『すべてがFになる』の魅力と言えるだろう。

世界中を旅しながら人の本質を知っていく『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』

総話数:12話

『キノの旅 the Beautiful World』(時雨沢恵一/KADOKAWA)

『ソードアート・オンライン』や『とある魔術の禁書目録』をはじめとする超人気作品を抱える電撃文庫。ライトノベル業界のいわばジャンプのような立ち位置にある人気レーベルだが、その電撃文庫の中でも『キノの旅』は、古くから多くのファンに支持されている作品だ。小説家・時雨沢恵一が手掛けた本作は、2000年に刊行されて以来、シリーズ累計820万部を超える大ヒットを記録。その独創的な世界観と、普遍的なテーマ性から現在でも多くのファンを魅了し続けている。『キノの旅』は2003年と、2017年の2度、テレビアニメとして放映されており、本記事では2017年版を紹介する。

『キノの旅』は、キノが相棒のエルメスという喋るバイクと一緒に世界中を旅する物語だ。「同じ国には3日以上滞在しない」というルールのもと、様々な国を訪れては、その国独自の風習やルール、制度に触れながら、人々と交流を図っていく。毎回のように別の国、別の風景、別の風習が描かれるので、どの話も新鮮な気持ちで楽しむことができるだろう。また、1話完結のアニメなので、どこから入っても問題なく話を追うことができる。

『キノの旅』のポイントになるのは、国ごとに異なるルールだ。「人を殺すことができる国」「大人の国」など、国にはそれぞれ特徴があり、こうしたある特定のルールの中に置かれたとき、人はどうなってしまうのか、その様子が描かれている。特定のルールの中で、人間の優しさが浮かび上がることもあれば、逆に、身勝手さ、愚かさ、醜さが際立つこともある。このように「ああ、人間ってこういうところあるよな……」と、人間の本質を毎回のように分からせてくれるのが『キノの旅』の特徴だ。

 特に、第11話の「大人の国」は、ぜひ鑑賞してほしいエピソードの1つである。第11話は、キノがまだ旅に出る前、大人の国と呼ばれる国で生活していたときの様子が描かれている。大人の国では、嫌な仕事でもちゃんとできるように、12歳の時点で、すべての子供が大人になるための手術を受けることになる。要は、脳をいじられて強制的に大人にさせられてしまうのだ。

 このエピソードは、現実社会の風刺として見ることができる。私たちの社会でも、「何歳になったら~しなければならない」といった常識やルールが存在し、それが人の個性や意志を無視するものであることも多い。現実社会では「20歳=大人」と考えられているが、本当にそうだろうか? そもそも大人とは何だろうか? 『キノの旅』のエピソードには、こうした現実社会に対する問題提起が含まれていることもあるので、社会を映す鏡として彼らの旅を追ってみるのもおすすめだ。

つながりたいのに、つながれない現代人へ『さらざんまい』

総話数:11話

『さらざんまい (上) 』(幾原邦彦、内海照子/幻冬舎コミックス)

『さらざんまい』は、『少女革命ウテナ』や『輪るピングドラム』、『ユリ熊嵐』など数々の話題作を手掛けてきた幾原邦彦監督によるアニメオリジナル作品。前作の『ユリ熊嵐』で女の子同士の恋愛を描いた幾原監督が、本作では男の子同士の恋愛をいつも通りのコミカルなタッチで表現している。

 幾原監督と言えば、記号で何かを表現することが多いが、『さらざんまい』でもこの演出は引き継がれている。例えば、冒頭シーンでいきなり「ア」と書かれた看板が主人公・矢逆一稀(やさかかずき)の上に落ちてきたり、「ア」の看板が街の至る所に配置されていたりする。作中でこの記号の意味については特に説明されないが、物語が進むうちになんとなく「こういう意味かな」と徐々に分かってくる。鑑賞する際は「この記号ってどういう意味なのかな?」とぼんやりでもいいので考えながら見進めれば、後になっていろいろな要素が組み合わさり、「そういうことか」と謎が解ける気持ちよさを感じてもらえるだろう。もちろん、こうした記号が分からない場合でも、『さらざんまい』は、十分感動できる作品となっている。

 作品の舞台は浅草。中学二年生の矢逆一稀、久慈悠(くじとおい)、陣内燕太(じんないえんた)はカッパの銅像を壊したことをきっかけに、カッパ王国第一王位継承者のケッピから尻子玉を奪われ、強制的にカッパの姿にさせられてしまう。元に戻るためには、欲望フィールドにいるカパゾンビという敵から、尻子玉を抜いてこなければならない。3人は協力して尻子玉を回収し、人間の姿に戻ることに成功する。しかし、尻子玉を回収するときに行った「さらざんまい」という意識共有によって、自分の中に隠していた知られたくない事実が、他2名にも漏洩してしまう。そして、同じころ、川嘘交番に勤務する新星玲央(にいぼしれお)と阿久津真武(あくつまぶ)の2人の警官は、何やら怪しい動きをしており――。

 以上が『さらざんまい』の簡単なあらすじであるが、注目したいのが尻子玉を抜いたときに行われる「さらざんまい」という行為。「さらざんまい」をすると、知られたくない情報を、意識共有した相手にも知られてしまう。例えば、主人公の一稀の場合、吾妻サラというアイドルの女装をしていたことが、久慈と陣内に漏洩してしまうのだ。

 しかし、秘密を互いに共有することで、むしろ3人の距離は徐々に近づいていく。現実社会でも「人とつながりたいのに、深くつながれない」と、悩んでいる人は多いだろう。その原因は、もしかすると、自分の本音や本質を隠しているからなのかもしれない。建前だけで人付き合いをするのではなく、自分をきちんとオープンにすることで、他者とつながれるというメッセージが、『さらざんまい』の中では表現されているものと考えられる。

 ほかにも、人が誰かとつながりたいと思っているのに、つながれない原因が『さらざんまい』の中では、いくつか描かれている。一稀は弟の春河(はるか)とつながりたいと思っているのだが、あることが原因で一稀はずっと春河に対して「罪悪感」を抱いており、そのせいでまともに向き合えなくなっている。

 つまり、「罪悪感」が人とのつながりを遠ざけてしまうこともあるのだ。SNSをはじめ、人とつながれるツールは増えている現代。その一方で、誰ともつながれない孤独を抱えている現代人。こうした現代の問題を、決して深刻なトーンではなく、あくまでもエンターテインメントとして楽しく表現しているのが『さらざんまい』のいいところ。人とつながれないことで悩んでいる人は、その原因を知るためにも一度『さらざんまい』を観てみてほしい。

自分らしいってなんだろう? と考えさせてくれる『ばらかもん』

総話数:12話

『ばらかもん』(ヨシノサツキ/スクウェア・エニックス)

「ばらかもん」とは、五島列島の方言で「元気者」という意味だ。これを読んでいる読者のみなさんは、元気だろうか? 「自分は元気だ」と即答できる人は、意外と少ないかもしれない。それはこの作品の主人公である書道家・半田清舟(はんだせいしゅう)も同じだ。

 書道家として活躍していた半田は、とある賞の祝賀会で、自分の書を見た書道界の重鎮から痛烈な言葉を浴びせられる。「まだ若いのに型に嵌った字を書くね」「実につまらん字だ」その言葉に半田は思わず拳を振り上げ、その先生を殴り飛ばしてしまう。

 罰として半田は、長崎県の五島列島で一人暮らしをすることに。半田は一人で書に没頭するべく家に籠って字を書こうとするが、それを邪魔する子供がいた。地元の分校に通う小学1年生の女の子・琴石なるだ。人の邪魔をする悪ガキかと思いきや、なるは半田の書を邪魔してしまったことを「ごめんなさい」と素直に謝る子だった。その姿を見て、半田はハッとする。半田は書道家の先生を殴り飛ばしたことを未だに謝れずにいたのだ。悪いことをしたら、きちんと謝る。そんな当たり前のことも、ちっぽけなプライドのせいで忘れていたのだ。

 半田は、なるや、地元の人たちと触れあいながら、人として大切なものを学んでいき、元気を取り戻していく。そして、その先にある型に嵌らない「自分らしい」字を求めて、書を書き続ける。人との交流を通じて変化する半田の書にぜひ注目してほしい。

 また、『ばらかもん』のオープニング曲であるSUPER BEAVERの「らしさ」は、放送当時、かなりの反響を集めた。歌詞が作品の内容とマッチしており、とにかく心に沁みるのだ。特にサビの「だから僕は僕らしく、そして君は君らしくって、始めから探すようなものではないんだと思うんだ」は、半田の抱えている葛藤に応えているようでもある。都会暮らしの中で、プライドや自意識でがんじがらめになったとき、この主題歌や『ばらかもん』という作品は、間違いなく観る側の心を動かすはずだ。

「人生」の光と闇を照らし出す感動作『Angel Beats!』

総話数:13話

『Angel Beats! -The Last Operation-』(麻枝准(Key):原作、浅見百合子:作画、Na‐Ga(Key):キャラクター原案/KADOKAWA)

『Angel Beats!』は、「とにかく泣けるアニメ」として有名だ。筆者も泣かされた一人であるため、アニメを観て泣きたいのなら間違いなくおすすめの1本。脚本を手掛けるのは『AIR』や『CLANNAD』、『リトルバスターズ!』など数々の泣きゲーのシナリオライターとして活躍してきた麻枝准。いずれの作品も、心に沁みる感動的な作品ばかり。こうした数ある麻枝作品の中でも特に泣ける作品として、多くのアニメファンが推す1本が本作である。

 主人公・音無(おとなし)は、見知らぬ学園で目を覚ました。ごく普通に見えるその学園は、生前、理不尽な理由でまともな青春時代を送れずに死んでしまった者たちを、成仏させるための場所、つまり死後の世界だった。この世界で、学園生活を謳歌すれば、未練が無くなり、無事に転生することができる。しかし、転生を拒み、理不尽な人生を強いた神への復讐を掲げるレジスタンスが存在した。ゆりが率いる「死んだ世界戦線」は、神の使いとされている天使という少女と、日夜戦いを繰り広げていた。音無は、その戦いに参加することになるのだが、次第にこの世界の秘密や天使の正体を知ることになる。

 なぜこの作品が泣けるのかと言うと、上記のように、出てくるキャラクターは何らかの理不尽な理由で死んでしまった若者だ。そのため、どのキャラクターも何らかの悲劇を抱えており、視聴者は各回でそれぞれのキャラクターが抱える悲劇を垣間見ることになる。その悲劇をどう受け入れていくのか、キャラクターそれぞれが自分の死にどう向き合っていくのか、その様子を丁寧に描いているため、涙なくしては見られないのだ。ただし、『Angel Beats!』のよさは、単に悲劇を描いている点にあるのではなく、人生の光と闇の両方を見せながら、人生そのものを賛美しているところにある。登場人物がそれまで見えていなかった、人生のよさに気づいていく過程にもぜひ注目してみてほしい。

 また、『Angel Beats!』は、原作・脚本を務める麻枝准が作詞・作曲を担当した主題歌も大変高い評価を集めている。オープニングの「My Soul,Your Beats!」は、天使というキャラクターがピアノを弾く映像にあわせて流れるのだが、このピアノの旋律から始まるオープニングを観た瞬間に作品世界に一気に引き込まれてしまうのだ。音無や天使の秘密が明らかにされた後に、きちんと歌詞を読み直すと、かなり泣けてくるため、一気に観終わったらぜひ歌詞をもう一度よく確認してみてほしい。

超高校級エリートたちのコロシアイ生活『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』

総話数:13話

『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』(燈谷朔:漫画、スパイク・チュンソフト:原作/エンターブレイン)

『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』(以下、『ダンガンロンパ』)は、スパイク・チュンソフトから2010年に発売されたゲームを原作に制作された推理アニメだ。『ドラえもん』の声優でおなじみの大山のぶ代さんが、モノクマという人の絶望を楽しむ極めてダークなキャラクターを演じたことでも有名な本作。大山のぶ代さんの魂のこもった悪役ぶりも、『ダンガンロンパ』の魅力を支える大きな要素となっている。

 各分野における超一流の高校生しか入学できない「私立希望ヶ峰学園」は、将来性のある人材を育てるためのエリート学校。そこに集められたのは、超高校級の才能を持つ15人の少年少女たち。その中には、抽選で選ばれたごく平凡な少年・苗木誠(なえぎまこと)の姿があった。彼は、超高校級の幸運の持ち主として、私立希望ヶ峰学園に入学を許されたのだ。才能ある仲間たちとの楽しい学園生活を期待していた誠だったが、学園に入るやいなや、突然意識を失ってしまう。次に目を開けたとき、誠を含む超高校級の面々は学園の中に閉じ込められていた。そこへ現れる学園長のモノクマ。モノクマ曰く、学園を出るためには仲間を殺さなければならないという。そして騒ぎの中、学園内で殺人が起きてしまい、犯人が誰なのかを決める学級裁判で命がけの議論が始まる。

『ダンガンロンパ』の魅力は、学級裁判におけるとにかくスピード感のある議論の応酬だ。原作と同様、事前に集めた証拠をまるで弾丸のようにセットし、各々、銃を撃つようにして犯人が誰なのかを主張し合う。犯人として選ばれた人間は、お仕置きという名の死刑に処されてしまうため、必死で反論する。反論につぐ反論で、互いに論理をぶつけあい、最終的に論破に至る。誰が殺人犯でもおかしくない状況で、誰を信じ誰を疑うのか、ギリギリまで悩まされる展開は観ていて息がつまるほど。

 そしてお仕置きに選ばれてしまったキャラクターの殺され方もみどころの1つだ。お仕置きにはそれぞれ名前が付けられており、例えば、「千本ノック」では、はりつけにされた人物がマシンガンのような勢いで千本の球を打ち付けられ絶命する。ほかにも、「ショベルの達人」「宇宙旅行」、そして「超高校級の絶望的おしおき」など、バラエティー豊かなお仕置きが用意されているので、そちらはぜひ本編でチェックしてみてほしい。

 また、『ダンガンロンパ』には、最後に凄まじいどんでん返しが…。そのため、途中で観るのを止めるのはもったいない! 最後までそれこそ一気見することを強くおすすめする。ミステリー好きのあなたでも、予想できない展開に驚くことになるだろう。

異世界の住人による表現豊かな食レポが楽しい『異世界食堂』

総話数:12話

『異世界食堂』(犬塚惇平/主婦の友社)

『異世界食堂』は、犬塚惇平の小説を原作に制作されたグルメファンタジーアニメだ。もともとは小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載されていた作品で、心温まるストーリーやお腹が空いてくるような巧みな描写で人気を集め、ヒーロー文庫より書籍化。その後、2017年7月にテレビアニメが放送され、話の中身はもちろん、作品世界の明るさを表現したWake Up, May’n!の歌う「One In A Billion」も話題を呼び、さらに多くのファンを獲得することになった。

 そんな『異世界食堂』の内容は、とてもシンプル。7日に一度異世界につながる洋食屋「ねこや」に、文化や種族を超えて様々なキャラクターがやってきて、店主が出す料理に舌鼓を打つというお話だ。1話完結型のストーリーで、各回それぞれで何かしらの問題や悩みを抱えた異世界のキャラクターたちが、突如現れたねこやの扉を開けて、そこで出される料理を食べるうちに、悩みが解消されていく。

『異世界食堂』では、特に、異世界の住人が現代の洋食を食べたときの食レポに注目してもらいたい。あまりのおいしさに、思わず心の声が饒舌になるのだが、その表現力が豊かすぎるのだ。まるで彦摩呂を思わせるような、多種多様な表現を聞くうちに、いつも食べているはずの…例えばオムライスにも、自分がまだ知らない魅力があったことに気づかされるような感動がある。また、マンガからアニメになったからこそ表現できる、匂いが伝わってきそうなリアルな描写も魅力の1つ。『異世界食堂』は、豊かな言葉による表現とアニメの良質な作画のダブルパンチで、観ているうちに食欲を刺激されること間違いなしの作品だ。

これはスポ根じゃない、ヒーローものだ!『ピンポン THE ANIMATION』

総話数:11話

『ピンポン』(松本大洋/小学館)

『ピンポン THE ANIMATION』(以下、『ピンポン』)は、『鉄コン筋クリート』などで知られる漫画家・松本大洋の漫画を原作に作られた卓球アニメ。『ピンポン』はあらゆる面で革新的なアニメだ。『ピンポン』には、実写の人物の動きをトレースして絵におこす、ロトスコープの技術が用いられているのだが、同じくロトスコープが使われていた『惡の華』よりも、無駄な部分を排したスタイリッシュな表現が実現されており、試合中のスピード感がとてつもないレベルに達している。さらに、漫画のコマ割りのような演出をしたかと思えば、背景を排して卓球台と選手の動きだけにフォーカスしたり、画面をモノクロにしたりと、自由自在に変化していく演出に魅了されてしまう。ここに、牛尾憲輔のリズミカルな音楽が合わさると、すぐにでも動き出したくなってくる。衝動が抑えられなくなる。『ピンポン』は、視聴者を作品世界に引き込む、凄まじい引力を持つ作品と言えよう。

『ピンポン』の主役は、星野裕(ほしのゆたか)[通称:ペコ]と、月本誠(つきもとまこと)[通称:スマイル]の2人だ。幼馴染の2人は、小学生時代から卓球場タムラで卓球をする仲だった。天才肌で自由奔放なペコと、寡黙で笑わないスマイルは、片瀬高校卓球部に入部する。「努力なんて才能のないやつがするもんさ」と言って、たいして練習もしないペコだったが、あるとき、現れた辻堂学院の留学生・孔文革(コウ・ウェンガ)に大敗。その後、同じ卓球場出身で卓球の名門・海王学園高校に入学した佐久間学(さくままなぶ)[通称:アクマ]にも、敗北するペコ。敗北のショックからペコは、卓球から離れるが、あることをきっかけにし、再起する。一方、スマイルは片瀬高校の顧問・小泉に才能を見出され個人レッスンを受けるうちに、圧倒的な強さを獲得していく。

 以上が『ピンポン』のあらすじだが、ここで事前に知っておいてほしいのが、この作品はいわゆる普通のスポ根ものとは一線を画す作品であるという点だ。では、何なのかと言えば、『ピンポン』は「ヒーローもの」なのだ。

 上記で紹介したとおり、ペコはあることがきっかけで、卓球場のオババから猛特訓を受け、再起を図る。ペコが奮起したのは、何を隠そう幼馴染のスマイルを助けるためなのだ。そもそも、どうして笑わない月本のあだ名がスマイルなのか、その理由が分かったとき、友のために努力し始めたペコの熱い気持ちに感動せずにはいられなくなるだろう。

 また、ペコはほかのキャラクターにとってのヒーローでもある。海王学園高校のエース・風間竜一(かざまりゅういち)は勝つことにこだわるあまり、かつて楽しかったはずの卓球で笑えなくなっていた。そこに現れるペコ。ペコの自由奔放なプレイに、風間はかつての笑顔を取り戻していく。このように、卓球というスポーツを通して誰かを助ける「ヒーローもの」としての魅力が『ピンポン』にはあるのだ。表現、音楽、テーマ、ストーリー、どれをとっても一級品なので、時間があるときに、ぜひどっぷりとハマってみてほしい。

 ここでは11話~13話で完結する一気見するのに適したおすすめアニメを紹介した。どの作品も魅力満載で、観る側を引き込む強烈な引力を持つものばかりだ。年末年始で余裕があるときに、ぜひともじっくり鑑賞してみてほしい。上記の作品なら、少なくとも観て損することはないはずだ。

文=木島祥尭