2024年、日本で「安楽死法案」可決!? ベストセラー医師による、初の本格医療小説!

文芸・カルチャー

2020/1/30

『小説「安楽死特区」』(長尾和宏/ブックマン社)

 自分の人生の幕引きくらい、自分で決めてしまいたい。病におかされ、治療の強い副作用で、自分が自分でなくなってしまうくらいならば、すぐにでも自ら死を選びたい。私は私らしく生きて私らしく死にたいのだ――自らの「死」について考えた時に、そう思う人はきっと少なくはないだろう。世界を広く見渡せば、医師など第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早める「安楽死」が認められている国も少なくはない。日本もいつの日か「安楽死」が法的に認められる日が来るのだろうか。

『小説「安楽死特区」』(ブックマン社)は、『「平穏死」10の条件 胃ろう、抗がん剤、延命治療いつやめますか?』『痛くない死に方』他、終末期に関する多くのベストセラーを出している医師・長尾和宏氏が、初めて書き下ろした本格医療小説。「日本でも安楽死を認めてほしい」と考える人が増えている時勢から、日々、死と向き合っている医師として、「もし、安楽死が認められたら、その先にどんな未来が待ち受けているのか」という世界を描いた本だ。この本は、医療小説として読者を惹きつけるだけではない。人生の末期に差し掛かった時、どう生き、どう死ぬべきなのかということを、改めて考えさせられるのだ。

 舞台は、2024年。日本政府は「安楽死法案」を可決し、東京都心の土地に「安楽死特区」を作ることを決定した。補助人工心臓手術の名医として名を上げていた尾形紘は、緊急搬送された大手自動車メーカー会長の手術執刀を拒否し、心臓移植待機中の少女の手術に向かったことで、大学病院内外から批判を受ける。失意の中、医師を辞める決意をした彼に下されたミッションは、「安楽死特区の主治医となり自殺幇助に加担せよ」という受け入れがたいものであった。一方で、かつて人気女流作家の名をほしいままにしていた澤井真子はアルツハイマー型認知症と診断をされ、小説が思うように書けなくなる前に死ぬことを願う。さらに、かつての東京都知事、池端貴子は日本初の孤独担当大臣に国から任命されると、末期がんであることを明かし、「私が、安楽死特区の第一号として死ぬ」と記者会見を行う。そして、さまざまな女と男、それぞれの「死にたい」物語が交差した時、前代未聞の事件は起きる…。

「まだここだけの話、ということで“安楽死特区”構想についてざっくり説明しますね。国家は、安楽死法案を通そうと目論んでますよ。なぜなら、社会保障費で国が潰れそうだからです。しかし国民皆保険はどうしても維持したい。それならば、長生きしたくない人に早く死んでもらったほうがいい、そう考えています。」

「安楽死法案」可決に向けて、国が動いたのは、何も国民の幸せのためではない。金の問題のためだ。東京オリンピック後、財政の危機に陥った日本は、社会保障費削減のため、「安楽死法案」を誕生させた。病を抱え、死を願う男と女が、そんな国家の罠にまんまと堕ちてゆくのだ。

 患者の死期を積極的に早める「安楽死」は本当に正しいことなのだろうか。この本を読むと、「もっと患者それぞれに、彼ららしい生きかた・死にかたがあるのではないか」という思いが募る。延命措置を断って自然死を迎える「尊厳死」の方が全うであっていいはずなのに、どうして人は「安楽死」ばかりに憧れを抱いてしまうのだろう。

「死にたい」と願うのはエゴなのか。「生きていて」と望むのは愛なのか。これは、日々患者の死と向き合っている医師だからこそ書けた小説。多彩な男女が織りなす群像劇をぜひともあなたにも読んでみてほしい。

文=アサトーミナミ