「終身雇用」「年功序列」が現存する“日本型企業”に忍び寄る外資の脅威! 対抗策は「くっつかない糊」!?

文芸・カルチャー

2020/2/18

※「ライトに文芸はじめませんか? 2020年 レビューキャンペーン」対象作品

『新装版 膠着 スナマチ株式会社奮闘記(中公文庫)』(今野敏/中央公論新社)

 大手銀行が社員の副業を認めるなど、個人と会社の関係がいよいよ大きく変化してきた昨今。かつて日本の企業の基本といえば年功序列に終身雇用だったが、もはやそうした体制は「旧い体質の会社」の象徴のようにも語られ、若い人ほどマイナスのイメージを持っている面があるのかもしれない。確かに能力主義とかグローバル志向とかの言葉には「進歩的な企業」のイメージがあるが、どっこい「日本型サラリーマン」は将来の不安をヘタに感じずに済んで幸せだし、昔ながらの「愛社精神」だっていざという時に粘り強い(かもしれない)。今野敏さんのサラリーマン小説『新装版 膠着 スナマチ株式会社奮闘記(中公文庫)』(中央公論新社)は、そんな昔ながらの日本型企業の魅力をユーモアたっぷりに再発見させてくれる1冊だ。

 きつい就職活動を経て、三流私立大学卒の丸橋啓太がなんとか入社できたのは、年功序列や終身雇用もしっかり残る地味な老舗糊メーカー・スナマチ株式会社。1カ月の工場研修を終えて配属された営業部でいきなり誤発注をしでかした啓太は、やり手の営業マン・本庄に救われながら四苦八苦する。そんな中、耳に入ってきたのは「スナマチが外資系の大手化学メーカー・スリーマークにTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられそうだ」という噂。まだ会社員らしさもよくわからないうちに自社が乗っ取りのピンチとは…不安を抱えながらも、なぜか啓太は本庄に引きずりこまれ会社の極秘会議のメンバーになってしまう。なんとその会議は社運をかけて行ってきたはずの新製品の開発が失敗し、その失敗作をどうにかできないかというものであり、失敗したことが外部に漏れたら株価が下がり、それこそTOBを仕掛けられかねない大ピンチに陥るというのだ…。

 問題になった新商品というのはなんと「くっつかない糊」。堅実なものづくり力が頼みのはずの中小メーカーが、よりによって主力商品の「糊」の特性をゼロにしてしまう商品を開発してしまうとは。その迷走ぶりもさることながら、昔ながらの長いカンヅメ会議でなんとか打開策を見つけようとする硬直した思考も古臭くて思わず苦笑。それでも諦めずに粘着するのはさすが「糊」メーカーだ。

 物語は先の見えない会議や出方の見えない外資の脅威が続き、まさにタイトル通りに「膠着」する。ちなみにその「膠着」という言葉も「膠(ニカワ=動物の骨や皮や腸をグツグツ煮てゼラチン質を取り出して作る古来から伝わる糊)でくっつけたように物事が動かなくなること」の意であり、やはりとことん「糊」なのだ。

 失敗の尻拭いや上司の無茶振り、休みなしの連日出勤…啓太が遭遇するブラックさには同情するが、それでも彼らを支えたのが自分自身の「スナマチ愛」だったことには注目したい。愛社精神なんていまどき古臭いかもしれないが、やっぱり人は「大事なもの」のために動くものなのかもしれない。

 どこか昔気質のヤクザの組長の活躍ぶりが爽快な今野敏さんの人気作「任侠」シリーズ(中央公論新社)にも通じるが、昔気質で何が悪い!――そんな開き直りが、むしろスカっとさせてくれる1冊だ。

文=荒井理恵

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