関係の悪い母の介護に直面した娘たちの苦悩。親子愛神話が溢れるこの国で、理想だけでは語れない母娘の真実の物語

暮らし

2020/2/21

『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』(寺田和代/主婦の友社)

「いろいろあっても最後はやっぱり親子ですね」。

 この言葉を、美しい、ととるか、おそろしい、ととるかで、世界の見え方はずいぶんちがうだろう。この国には、親子愛神話が溢れている。けれど「親子なんだから」を押しつけるのは、異性愛以外のセクシュアリティをもつ人にそれを押しつけるのと同じくらい無知で傲慢だ、と語るのは社会福祉士の資格ももつライターの寺田和代さん。『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』(主婦の友社)では、母の介護に直面した6人と著者自身の実体験をもとに、理想だけでは語れない母娘のさまざまな真実が綴られていく。

 虐待、過干渉、親の依存症などのある子ども時代を生きのび、いったんは母と距離をとった女性たちが母の介護を機に、40〜50代に至って再び母娘関係の苦しさに直面する。その時に、母娘関係の過去をどう整理し、自分の感情に向き合い、どんな道を選ぶかは、本当の意味でその人自身の人生に踏み出せるか、にもつながってくるのだろう。

 ストーリー1で語るのは、不仲な両親のもとに育ったひとり娘のエリコさん(53歳)。過干渉の母親をもつ彼女は、激しい暴力を受けたわけでも経済的に困窮したわけでもないので、もしかしたらいちばん他人から「それくらいのこと」と言われかねない境遇だ。次章のユカリさん(43歳)の〈身体的な暴力やネグレクト(育児放棄)のような虐待なら、自分でも虐待と認識しやすいのでしょうが、私の場合は(略)ただひたすら過干渉でしたから〉という言葉も重い。

 エリコさんは、数カ月に一度、母と外食や旅行に出かけるし、家族として最後の後始末をつけるつもりはある。けれど、一生赦すつもりはないし、絶対に一緒には住まないと決めている。最期まで一対一で本気で向き合うことはなく、“ほんとうの気持ち”に触れないまま静かに関係を終わらせたい――そんな彼女の静かな決意に胸を打たれた。一方で、ユカリさんは周囲の協力も得て、施設に入った母と一切の連絡をとることはなく、母の支配から逃れてようやく自分の人生を歩みはじめた。自分の心を守るため、どういう距離感でどういう最終章を迎えるのがいいかは人によって異なる。決められた正解はひとつもない。

 関係悪化の原因はさまざまだ。身体的な虐待を受ける人もいるし、父親の暴力や不在によって家族全体が歪むこともある。同じ境遇でも扱いが違うために、苦しみを理解してくれない妹から、母と距離を置くことを身勝手と責められることもあれば、逆に自分より大切にされていたはずの姉が、早々に逃げ出してしまうこともある。こうした姉妹との断絶もまた、いっそう孤独感とやるせなさを煽るだろう。そしてまじめな人ほど、娘としての義務を果たそうとするし、母と断絶することを決めてからも罪悪感や自責感に苦しむ。

 だからこそ、本書の7者7様のケースから、読み手は自分だけの救いのかけらを見つけられるのではないかと思う。「法的に親子の縁を切ることができるのか」を中心に、知っておくと気が楽になる実務的な知識を弁護士に聞く章もまた、きっと助けになるはずだ。

文=立花もも