クールな薬師と美貌の宦官が、薬の知識で後宮の事件を解決!? 大人気中華風ミステリー『薬屋のひとりごと』

文芸・カルチャー

2020/2/26

※「ライトに文芸はじめませんか? 2020年 レビューキャンペーン」対象作品

『薬屋のひとりごと』(日向夏/主婦の友社)

 巷の評判になるダイエットは、ひととおり試してみずにはいられない。とはいえ、きちんとした栄養の知識もなく飛びつくものだから、踊らされてしまうこともしばしばだ。たとえばバナナ。昨日までは低カロリーだからと推奨されていたはずなのに、今日は糖質が多いからとNG食材になっているなんて…いいよもう、バナナおいしいし好きだから! こんなとき、ちゃんとした栄養や美容の知識があればなあと思うのだが、同じような気分を『薬屋のひとりごと』(日向夏/主婦の友社)の主人公・猫猫(マオマオ)と関わった者たちも味わっているかもしれない。

 物語の舞台は、とある大国の後宮。花街で薬師として生計を立てていた猫猫が、人さらいに売られてここに来てから3カ月のときが経った。猫猫が下働きとして働く後宮に入ることができるのは、美しい衣を纏う女官たち、元男性である宦官、そして国で最も高貴な方──皇帝と、その血縁の者だけだ。

 後宮にあふれる化粧の香、女たちの作り笑いには辟易している猫猫だが、2年ほどおとなしく働いていれば、市井に戻れないわけではない。やせっぽちの体にそばかすだらけの地味な顔では、間違っても帝のお手つきになることもあるまい。このまま何事もなく、年季が明けるのを待てばいい──そう考える猫猫は、17歳にしては達観した思考の持ち主であると言えよう。けれど、どうしても抑えられないものもある。好奇心と知識欲、そして、ほんの少しの正義感だ。

 そのころ後宮では、お世継ぎに関するある噂が広がっていた。宮中では、これまでに3人、帝の子が亡くなっている。幼子の死亡率が高いのは当たり前のことではあるが、3人ともとなるとどうもおかしい。存命の2人の御子も、さらにはその母親である妃たちも、日に日に衰弱しているという。先代の側室の呪いだろうか、はたまた血筋によるものか、皇位を狙う者による毒殺か。さまざまな憶測が飛び交う中、無愛想で無口な下女として知られる猫猫には、思い当たることがあった。

 興味本位で事件の真相を調べはじめた猫猫は、考えうる原因について、寵妃たちに匿名で警告を発する。その警告に目をつけたのが、天女と見まごう美貌の宦官・壬氏(ジンシ)だ。壬氏は、警告を発したのが猫猫であると突き止め、帝の寵妃の毒味役を命ずる。猫猫としては、裏の見えない笑みを浮かべる宦官などと関わり合いになりたくはないのだが、首をはねられたくもない。猫猫は、しかたなく寵妃の侍女となり、毒味の役目をこなしつつ、壬氏とともに宮中で起こる事件や噂を解明することになるのだが…?

 滋養のある食物も、食べ過ぎれば体に毒だ。美しいはずの愛や友情も、後宮という少々特殊な空間においては、歪にゆがむことがある。人の肉体だけでなく、心や人間関係の中にもひそむ病巣を、猫猫は薬や毒の知識とまっすぐな視線で見抜き、癒していく。その痛快な活躍ぶりに、読み手の胸も軽くなる。

 小説投稿サイト「小説家になろう」で大絶賛、クールな薬師と食えない宦官が女の園で繰り広げる後宮事件簿。ページを繰る手が止まらない中毒症状には、くれぐれもご注意を。

文=三田ゆき

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