愛の行為はどう描かれる? ヒロインが必ずハッピーエンドを迎える「ハーレクイン」の気になる内容

文芸・カルチャー

公開日:2020/3/3

『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』(尾崎俊介/平凡社)

「ハーレクイン・ロマンス」を読んだことはあるだろうか? ――え、恥ずかしくてたえられない? そうなのだ、誰もが読書体験をおおっぴらにしないレーベル、ハーレクイン。しかし、その歴史は70年と古く、今でも本屋に行くと必ず売っている。つまり、長期にわたって常に一定のニーズがあるのだ。

『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』(尾崎俊介/平凡社)は、米文学教授(ちなみに中年男性)が、初めてハーレクインを読んだところから始まる1冊。何だこれは!?!? とその内容に驚愕しつつ、アメリカの20世紀史と合わせて掘り進めていくのが非常におもしろい。では早速その禁断(?)の内容を覗いてみよう。

絶対にハッピーエンド。恋愛小説の気になる内容は?

 ハーレクインの主人公はたいてい20代の女性。どの本も絶対にハッピーエンドで終わる恋物語。そして、どの本を買っても内容の大筋は同じで、ハズレがないのが特徴だ。例えば、1994年発行の『愛に震えて』より。

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主人公のリーアンは25歳。余命いくばくもない母を見舞いに故郷に帰るが、そこでいきなり大富豪である義理の兄弟ディミートリからプロポーズされる。母の死ぬ前に花嫁姿を見せたいと、リーアンはプロポーズを承諾する(え、いきなり!?)。しかし、ディミートリにはその財産を狙う超絶美女シャンナがまとわりついている。リーアンがディミートリを喧嘩腰で責め立てたところ、彼は彼女を乱暴に抱きすくめ情熱的なキスでその口を封じる。「君は僕の妻なのだから」と、強引に服を脱がせてそのまま行為に突入…。その超絶テクニックにリーアンは喧嘩腰だったことも忘れてうっとり(ええっ!?)。そんなことを何度も繰り返しているうちに(??)、彼が本当に愛しているのはリーアンただひとりだと判明。かくして、愛を確かめ合った2人はハッピーエンドを迎える。

 このストーリーのどこがいいの? と呆れ顔のあなた、もう少しお付き合いのほどを。完全なる女性ターゲットのこのレーベルは、20世紀の女性たちの現実と、その過酷な現実を忘れるための女性たちのドリームの歴史をどちらも背負っているのだから。

 ハーレクインは1949年にカナダでハーレクイン・ブックス社が立ち上げたレーベルだ。当初は、イギリスのロマンス小説をペーパーバックにして出版していた。イギリスでは、ロマンス小説専用のレーベルがあったわけではないのだが、世界に先駆けて女性読者を対象とした本が出版されていた。理由は単純、産業革命がイギリスから起こったからだ。労働者階級の女性たちは、辛い労働の合間に、シンデレラストーリーを読んで“心の充電”を図っていたのだ。だが本は高いので、もっぱら貸本屋頼みだったという。

“愛の行為”はどう描かれるべき? その変遷

 さて、話をハーレクイン・ブックス社に戻そう。同社は、男性向けの冒険小説や教養書がメインだったカナダの出版市場で、それまで気づかれずにいた女性たちをターゲットにして順調に売り上げを伸ばしていく。そして、さらなる販路拡大をと、アメリカン・ドリーム真っ只中のアメリカ市場に進出するのだ。

 アメリカン・ドリームは、貧しい生まれでも努力と才覚で億万長者になれるという、いわば成り上がりをゴールにしたものだった。しかし、それは当時男性に限られたもので、社会で活躍する場が限られていた女性が成り上がるためには、お金持ちと結婚するしかない! ――こうした社会背景の波に乗り、アメリカでもハーレクインは好調に売り上げを伸ばしていく。

 ちなみに、スタート当時からハーレクインがSEXシーンを入れていたわけではない。アメリカはプロテスタントの国で、本来、性には厳格なのだ。ハーレクインの大事な点は、庶民の女性が大金持ちの男性と結婚するというストーリーにある。SEXについては、「彼はそっと扉を閉めた」などの匂わせる程度が美徳とされていた。

 ところが、1980年代にライバルとなるシルエット・ロマンスが登場する。こちらは、「愛の行為は官能的であるべきで、ある程度具体的なことを書いても構わない」という方針で大ヒットを記録。80年代ともなれば女性も社会に進出し、以前より性に対してもオープンになっていたのだろう。そこで、50年代、60年代の美徳を貫いてきたハーレクインは、慌てて反撃に出る。官能表現の戦争が巻き起こるのだ!

 とはいえ、肝心なのは絶対にハッピーエンドになるシンデレラストーリーであることに、今も昔も変わりはない。日本では、コミック版も出ているので、気になった方は実際に手に取ってお読みいただきたい。

 現代の私たちからみると、女性にとって結婚は人生すべてを賭けた一大勝負という価値観は、いささか重すぎると感じるかもしれない。だが今でも確実に、日本を含めて世界中にこのレーベルにファンがいる。私も娘に隠れて実際にハーレクインを読んでみたが、不思議な癒しタイムだった。多様な生き方が容認される現代でも、シンデレラドリームは健在なのである!

文=奥みんす