私たちが「空気を読む」理由――協調性重視で義憤に駆られやすい日本人の性質は、脳のせいだった!

暮らし

公開日:2020/4/8

『空気を読む脳』(中野信子/講談社)

 日本人は基本的にまじめで、協調性を重んじ、義理や礼儀を大切にする、と思われている。実際、そういう人は多いと思うのだが、“村八分”の習慣やら芸能人不倫バッシングやら、和を乱す、あるいは集団の倫理にもとると思われたときの攻撃力はすさまじい。これについて脳科学者の中野信子さんは、〈(日本人の脳は)不安が高く、社会的排除を起こしやすく、おそらくは同調圧力を感じやすいと解釈可能〉と新刊『空気を読む脳』(講談社)で述べている。

 日本人のほとんどは遺伝的に、中脳にある「セロトニントランスポーター」の量が少ないため、〈世界でも、最も実直で真面目で自己犠牲をいとわない人々〉である反面、〈いったん不公平な仕打ちを受けると、一気に義憤に駆られて行動してしまう〉性質をもっているという。同調圧力を感じやすい、ということはつまり、「空気を読む」能力に長けているということ。本書ではこうした脳の特質を解説しながら、日本人の陥りやすい傾向をひもといていく。

「“醜く”勝ち上がるよりも“美しく”負けるほうに価値がある」と思いがちなのも、「セロトニントランスポーター」の少なさによる。自分が利益を失ってでも、不正(に見える、美しくない)手段を選んだ相手には制裁を加えたい、という気持ちが強くなりやすく、善悪と美しさを混同してしまうのだ。不倫バッシングの場合はさらに、自分が「正義」の側にいることを確認する行為でもあるため、脳が快感という報酬を得てしまい過熱しやすいのだという。

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 それは集団の秩序を守るために必要な行為だから責めるものでもないのだが、善良な人ほど攻撃性が高くなる傾向があるのは事実、と中野さんはいう。その言葉に、ああなるほどと胸に落ちるものがあった。協調性を発揮できず、人の輪にうまくなじめない人が自分を責めたり負い目を感じたりしやすいのは、集団の側が常に“正しさ”をもって接してくるからだ。うまくできない自分が“悪い”ような気がしてしまう。でもそれは単に、脳のしくみによってとりがちな行動が違うというだけで、善悪は関係ないのだといわれると、とてもほっとする。

 愛と信頼のホルモンと呼ばれるオキシトシンという物質も、生きづらさを助長することがある。絆を強める方向に働く、ということは、集団から逸脱する人に対して攻撃性を発揮しやすいということだ。オキシトシンの濃度が高いと、「自分たちと異質なもの」を不当に低くみなしてしまう。つまり「空気を読めない」人を憎む。それがヘイトスピーチや毒親の誕生につながってしまうのだ。

 ほかにも、女という呪われた性を背負っているおかげで日本人女性が婚活に苦しむ理由、「褒めて育てる」ことの危険性、「すぐに返信しない男」と「既読スルーを我慢できない女」の違いはなんなのか――具体例をあげながら私たちの日常を脳のしくみでひもとく本書。生きづらさの理由が論理的に解明されることで、いきなり解決はしないかもしれないけれど、現実を少しはラクに受け止められるようになるかもしれない。

文=立花もも