細菌兵器で世界がパニックに…。パンデミックの恐怖を描く『復活の日』

文芸・カルチャー

2020/4/9

『復活の日(角川文庫) 』(小松左京/KADOKAWA)

 世界は今、大混乱の最中にいる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、ほんの数カ月前まで当たり前だった日常は遠くなった。収束がまったく見えない未曽有の恐怖に人々が震えている。

 そんな状況の中、話題になっているのが『復活の日』(小松左京/KADOKAWA)。本作は1964年に書き下ろされたSF小説だ。

人類を滅亡させる細菌兵器「MM-88」

 すべては、イギリス陸軍細菌戦研究所で試験中だった細菌兵器「MM-88」が職業スパイに持ち出されたことから始まる。「MM-88」は感染後70時間以内に生体の70%に急性心筋梗塞を引き起こし、残りも全身マヒで死に至らしめる。MM-88の保管容器を乗せたスパイの小型飛行機は吹雪の中、コースをあやまりアルプス山中で墜落。MM-88が入った保管容器は砕け散った――。

 その年の春、人気俳優が自動車で走行中に心臓麻痺で突然死したり、家畜が奇妙な死を遂げ始めたりした。初め、人々は家畜の疫病だと考えていたが、おびただしい数の人間が心臓麻痺で突然死していくように…。新型インフルエンザだと考えられ始めたが、実はそれは気温が上がったことで「MM-88」が大気中で増殖したためだった。

 抗生物質が効かず、感染のメカニズムも分からない未知の菌により、人間社会は壊滅状態に。わずか半年で脊椎動物はほぼ絶滅した。その過程で描かれている、病での死を恐れて自殺する人や死に際に未来への願いを託す人の無念な最期に胸が苦しくなる。

 唯一生き残ったのは、南極大陸に滞在していた各国の観測隊員1万人と原子力潜水艦「ネーレイド号」や「T-232号」の乗組員たち。人々は国家の壁を越えて「南極連邦委員会」を結成。力を合わせて食料や子孫の問題など乗り越え、世界が再び復活する日に思いを馳せていた。

 そんなある日、日本観測隊で地震学を専門とする吉住はアラスカ方面での巨大地震の発生を予測する。その地震をホワイトハウスに設けられた「自動報復装置(ARS)」が敵国からの核攻撃と誤認すると、南極へも危機が迫ることが判明。唯一の生き残りである南極が滅びることは人類滅亡を意味する。そこで吉住は仲間と共に「決死隊」として、2度目の人類滅亡の危機に立ち向かうのだが――。

 現在はパンデミックの怖さにばかり目が向きやすいが、天災や戦争など、人間に脅威を与えるものは他にもたくさんあるのだということも本作は思い出させてくれる。

作中のパニックから「希望の持ち方」を学ぶ

 本作に描かれているパニックはあくまでフィクションだが、現実と重ねて気になる点もある。例えば、南極を除く全大陸において感染が確認されている点。数カ月前まで新聞の隅に小さく記されていた感染症の文字がいつしかトップ面に躍り出て政治面、芸能面、スポーツ面にも現れるようになった点などだ。

“いつかは「現実」が、「報道」をおいこして、インクの香りのする新聞紙や、ラジオ、テレビの受信機の背後から、こちら側へ、せまってくる時がくる。――その時、惨劇はもはや人ごとではなく、あなた自身のものになるのだ。”(引用)

 この一節を目にすると、背筋が寒くなってしまう。

 だが、筆者は絶望感を高めるためではなく、希望を持つために本作を薦めたい。作品を通して不安を増長させるより、今の自分たちにできることを各々が考えていけたらと思う。

 増え続ける感染者数に不安はますます募るが、そんな時だからこそ、希望を捨てず、自分にできる最大限のことをしていけたら…。自力では気休め程度のことしかできないかもしれない。けれど、できる限りの危機管理をしつつ、希望を持ちながら前に歩んでいけば、この先さらに苦しい状況に立たされたとしても絶望に負けず生きていけるのではないだろうか。そして、多くの人が希望を持ち続ければ“希望の輪”が広がり、“復活の日”への道も見えやすくなってくると思うのだ。

 本作は、数十年後に平和慣れしてしまう人類への警告本だったのかもしれない。私たちは1冊のSF小説から普遍的な日常のありがたさと、復活への糸口を学ぶ。

文=古川諭香

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