湊かなえ最新作! 大量のドーナツに囲まれて自殺した田舎町の少女――登場人物全員に見える“美醜”への執着

文芸・カルチャー

2020/5/14

『カケラ』(湊かなえ/集英社)

〈田舎町に住む女の子が、大量のドーナツに囲まれて自殺したらしい。
モデルみたいな美少女だとか。
いや、わたしは学校一のデブだったと聞いたけど――。〉

 プロローグとも言いがたい、本編が始まる前のたった3行。それだけで謎と悪意、そして真実は主観によって捻じ曲がることを予見させるなんて、さすがは湊かなえさんである。最新小説『カケラ』(集英社)は、少女について語る人々を通じて少しずつ自殺の真相に近づいていくミステリー。全7章で語り手は変わるものの、地の文も会話文も一切なく、一人語りによってのみ物語が綴られていくスタイルは、デビュー作の『告白』と同じだが、異なるのは本作ではすべて同一人物が聞き手を務めているということである。

 橘久乃。通称、サノちゃん。元ミス・ワールドビューティ日本代表、テレビでコメンテーターとして呼ばれることもある、予約の取れない美容クリニックの医師。そんな彼女の前に「痩せたい」と現れた幼なじみが語り手の第1章で、久乃は小学校の同級生・横網八重子の娘が亡くなったことを知らされる。

 横網八重子は、太っていた。体重64キロの「ロクヨン部屋」のヨコヅナと――横網と横綱は字がよく似ているから――呼ばれていた彼女は、ひそひそ陰口を叩かれ笑われることに敏感で、どちらかというと卑屈で陰気な少女だった。だが、彼女の娘・有羽は違う。太っていたけど俊敏で、足もはやく、ダンス部でも華麗に踊ってみせる、笑顔の素敵な人気者。有羽の母親、つまり八重子の揚げるドーナツは文化祭で売り切れるほどの人気で、彼女はいつも自慢していたという。けれど有羽は死んだ。そのドーナツに囲まれて。そして八重子は、虐待親として激しいバッシングを受けている…。

 幼なじみから死を聞かされた久乃は、次に有羽と同級生だった少女を患者に迎え、さらに詳しい話を聞きだす。そして今度は、わざわざ田舎町に帰省して、彼女に関わりのあった人たちにみずからコンタクトをとって話を聞いていく。久乃はなぜそんなにも有羽を気にするのか? も物語の謎のひとつだが、さらに読みごたえがあるのは、語り手たち全員に見える“美醜”への執着だ。

 痩せている、太っているというだけの話ではないのだ。一重のせいで目つきが悪いと思われる。男のくせにチビだと笑われる。男も女も、多かれ少なかれ“見た目”をジャッジされながら生きているし、自分もまた他人をジャッジする。そうして軽率に思いこむのだ。太っている人は不健康だとか痩せたいに違いないとか、偏った基準を押しつけて、異なる価値観で生きている人たちを知らず追い詰めていくのである。

 久乃も、例外ではない。美醜でジャッジされる呪縛から人々を解き放つべく美容整形を仕事に選んだ彼女が最後に辿りついた真実――それはとても正当で美しいように見えるけれど、やはりどこか主観によって捻じ曲げられている気がするのは、ひねくれた見方だろうか。

 第2章、有羽の同級生が語るドーナツを一緒に揚げたときの思い出の描写が、あまりに甘い幸せに満ちているだけに、ラストはひどく切なくなる。同時に、読み手である自分のなかに根づく偏見にも気づかされ、幸せとは、美しさとはなにかを考えずにはいられない。

文=立花もも

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