BTS(防弾少年団)が変えたK-POPと世界のミュージックシーン! 成功の陰にあったのは…?

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公開日:2020/6/21

『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』(キム・ヨンデ:著、桑畑優香:訳/柏書房)

 アジア発のアーティストが欧米の成熟した音楽市場で成功を収められる事例はなかなか少ない。しかし、なかにはある種の“突然変異”のように火がつくアーティストもいる。2013年6月にデビューした韓国の男性7人組ヒップホップアイドルグループ・BTS(防弾少年団)は、まさにその1組だ。
 
 今や世界中にARMY(BTSファンの愛称)を持つまでに成長したグループはライブを中心に活躍し、海外のチャートでも存在感を示している。今年2月に発売された彼らの4thアルバム『MAP OF THE SOUL : 7』(日本発売は7月15日)は、アメリカの音楽週刊誌『ビルボード』の週間チャート「ビルボード200」で過去3作に続いて首位を獲得。名実ともに確固たる地位を築き上げている。
 
 いったい何が、世界的な熱狂を生み出す要因になっているのか? 「彼らの最大の魅力と成功の秘訣はずばり音楽とパフォーマンスにある」と断言するのが、音楽評論家で文化研究者でもあるキム・ヨンデ氏による書籍『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』(桑畑優香:訳/柏書房)だ。本書を読むと、熱狂的ブームの背景を読み解くことができる。

本国での逆輸入的なヒットは、K-POP界の転換点に

 ジン、シュガ、ジェイホープ、アールエム、ジミン、ヴィ、ジョングクの7人からなるBTS。彼らは今や、音楽性だけではなくファッション・アイコンとしても若年層をはじめ広く支持を集めている。

 本書によれば、彼らの分岐点になったのは、2014年夏にアメリカ・ロサンゼルスで行われた韓国文化をテーマにした複合イベント「KCON」だった。当時の様子について著者は、「彼らにたいするアメリカのK-POPファンたちの反応が、異常なほどに熱かった」と振り返る。

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 その後、ビルボードをはじめアメリカの現地メディアもファンの熱狂ぶりを追いかけ始めたのはいうまでもない。そして、彼らが世界的に熱狂を生み続けているいわゆる“BTS現象”は、K-POPの世界戦略にとっても大きな転換点になった。

 彼らの登場まで、K-POP界は、中国、日本など東アジアを中心に火がつき、東南アジアを制したあと、アメリカとヨーロッパ、南米などに広がるというのが、おおよその流れだったという。一方、BTSのヒットはいわば“逆輸入的”で、「ポップスの心臓部であるアメリカでの爆発的な反応が起爆剤となり、これまでのケースとは逆行するようにアジアや南米へと拡大した」と著者は分析している。

ファンであるARMYがBTSの世界的成功に貢献した

 ニューヨーク・ブロンクス地区を起源とするヒップホップ界で、アジア発のムーブメントを生み出すのはけっしてたやすいことではない。しかし、そのような状況下でなぜBTSは存在感を示すことができたのだろうか?

 それを読み解く上で、本書にある著者と『ビルボード』のコラムニストであるジェフ・ベンジャミン氏の「彼らはなぜアメリカで成功したのか」という対談がじつに興味深い。

 彼らの立ち位置について「世相を批判したり、同世代の若者にダイレクトに語りかけ、癒しのメッセージを送ったりするグループはまれな存在」と評価するキム氏。対して、ベンジャミン氏はその思いに共感しつつ「2017年にリリースされた『Go Go』(邦題は『悩むよりGo』)で感じました」と振り返る。

 当時、BTSのメンバーへインタビューしたベンジャミン氏は、アールエムから「ゲームセンターでぬいぐるみをとろうとする若者たちは、浪費するために設計されたゲーム機に、お金をたくさん投じている」と韓国の若者文化にまつわる話を聞いた。

 その場では実感がわかなかったが、のちに韓国へ足を運んだときに男性がガールフレンドのためにぬいぐるみを取ろうとクレーンゲームに奮闘する姿をみたベンジャミン氏。その体験により、アールエムが「自分の目で見て感じたこと」を歌詞へそのままぶつけていることが分かり、彼らの曲づくりが「ポピュラー音楽産業によってつくられた『ソングライティングキャンプ』システム」とは一線を画していたことに気付いたという。

 さらに、BTS現象の背景では彼らを支えるARMYたちの役割が大きかったと続けるベンジャミン氏。ARMYの功績について「世界の人びとに、なぜこのグループが重要なのか、なぜ自分たちが情熱的なのかを見せ、BTSの成功に貢献しました」と評価している。

 さて、ここで取り上げたエピソードは本書のごく一部に過ぎない。全300ページ以上にわたるBTSの解説書では、さまざまな識者による多角的な分析、そして、過去の音楽作品についての詳細なレビューも紹介されている。ARMYにとって、そしてこれからARMYになる予備軍にとっても間違いなく必携の1冊だ。

文=青山悠

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