『鬼滅の刃21』死に際に見えた不死川兄弟の本当の想い…そしてついに始まる鬼舞辻無惨との最後の戦い【ネタバレあり】

マンガ

更新日:2020/7/31

『鬼滅の刃21』(吾峠呼世晴/集英社)

 5月18日発売の『週刊少年ジャンプ』24号で、ついに完結した『鬼滅の刃』。社会現象を引き起こすほど人気を博した中で、ストーリーを無理に引き延ばすことなく堂々の最終回を迎えたことに、「有終の美」を感じる。どこか物語のテーマと共通点があるような気がするのは、私だけだろうか。

 いずれにせよコミックスのほうは、まだまだ佳境。最終目的である鬼舞辻無惨との対峙が残されている。単行本を開けば、数か月前に日本中を大興奮させたスリリングな展開へと引き戻されるわけだ。

 『鬼滅の刃21』(吾峠呼世晴/集英社)の始まりは非常に切ない。命懸けで“上弦の壱”に勝利した一方、かけがえのない仲間を失ってしまう。

advertisement

 まず片腕と下半身を失っても、最期の時まで戦い続けた時透無一郎。黒死牟の身体を貫いた赤い刃が、やつの身体を強張らせ動きを鈍らせた。悲鳴嶼行冥は、涙を流しながら時透無一郎の体に自身の羽織をかけ、「必ず無惨を倒して其方へ行く。安心して眠れ」と約束した。

 そして不死川実弥の弟である、不死川玄弥にもその時が訪れようとしていた。鬼を喰らってその力、果ては血鬼術までを得る特別な能力を持っていたが、黒死牟に身体を縦に両断されて再生できず、かろうじて意識を保つ。もはや命尽きる寸前、玄弥の口から出てきた言葉が「兄…貴…生きて…る…良かっ…た…」だった。

 ここで個人的に思い出した場面がある。133話だ。柱稽古で鬼殺隊一同が猛特訓をする合間、実弥と玄弥が会話するシーン。いや、会話なんて生優しいものじゃない。

馴れ馴れしく話しかけてんじゃアねぇぞ
それからテメェは見た所何の才覚もねぇから鬼殺隊辞めろォ

 実弥が実の弟に「鬼殺隊を辞めろ」と、信じられない剣幕で迫るのだ。さらに会話の流れで、鬼を喰らう玄弥の戦闘スタイルを知ると豹変。

再起不能にすんだよォ
ただしなァ
今すぐ鬼殺隊を辞めるなら許してやる

 再起不能といいつつ、どう見ても弟を殺そうとしていた。133話を読んだ当時、私は実弥が嫌いだった。鬼殺隊や兄の役に立とうと、必死に戦う玄弥の気持ちが分からないイヤな奴だと決め込んだ。

 しかし真実は違ったらしい。

うわああああああ!!
どうなってる畜生ッ!!
体が…
なんで鬼みたいに体が崩れる
ああああ
クソッ!!クソッ!!

 兄は、命尽き果てようとする弟の姿を見て泣き叫んでいた。

大丈夫だ
何とかしてやる
兄ちゃんがどうにかしてやる

 実力主義で己や周囲に厳しく、粗暴にふるまっていた実弥。でもそれは、もう誰かが鬼に殺される姿をもう見たくなかった。それだけなのかもしれない。なにより弟だけは、絶対に死んでほしくなかった。だから鬼殺隊を辞めろと迫った。鬼を喰っていると知り、殺す剣幕で止めようとした。

 そしてその願いは、どれだけ冷たくあしらおうと、弟にしっかりと届いていた。

同じ…気持ち…なん…だ…
兄弟…だから…
つらい…思いを…たくさん…した…兄ちゃん…は…
幸せに…なって…欲しい…
死なないで…欲しい…

俺の…兄ちゃん…は…
この世で…一番…優しい…人…だから…

 弟を抱きかかえながら「頼む神様。どうかどうか弟を連れていかないでくれ」と泣き叫ぶもむなしく、「ありがとう」という言葉を遺して、玄弥は鬼のように消え去った。無情という言葉が頭をよぎる。あまりに痛ましい。

 すべての元凶は、始祖の鬼である鬼舞辻無惨だ。今夜こそこいつを殺さなければならない。何があっても。絶対に。

 “上弦の参”に打ち勝った炭治郎と冨岡義勇は、ついに鬼舞辻無惨と相対する。姿を見ただけで激高する炭治郎。「落ち着け」と諭す義勇も青筋を立てている。そんな二人に、無惨はこう言葉を放った。「しつこい」。そして驚くべき言葉を口にする。

お前たちは生き残ったのだからそれで充分だろう
身内が殺されたから何だと言うのか
自分は幸運だったと思い元の生活を続ければ済むこと

私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え

死んだ人間が生き返ることはないのだ
いつまでもそんなことに拘っていないで
日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう

いい加減に終わりにしたいのは私の方だ

 全身が逆立つような身勝手な言葉に、炭治郎は眼を虚ろにして「お前は存在してはいけない生き物だ」とつぶやいた。

 とうとう最後の死闘が始まる。頸を斬っても死なない、この許しがたい鬼を殺す方法はただひとつ。太陽のもとへ引きずり出すことだ。夜明けまであと1時間半。短いようで、途方もなく長い。

 ここからいよいよ戦いが苛烈を極める。多くの犠牲を払って倒してきた上弦の鬼たち。その死闘が可愛らしく思えるほど、血みどろの地獄が幕を開けるのだ。

 すでに完結した作品とはいえ、やはり単行本を開けば手に汗がにじむ。作品の熱量にあてられたのか、目を閉じるとその奥がジンジンする。これだけの作品が最終回を迎えたことは寂しい。しかし単行本が発売される限りは、しばらく鬼滅ロスも忘れられそうだ。

文=いのうえゆきひろ