危険な情事、ウザイ女、お一人様女子…千年前の女子活を覗いてみたら見えてきたものって?

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/12

『平安女子は、みんな必死で恋してた イタリア人がハマった日本の古典』(イザベラ・ディオニシオ/淡交社)

 記憶に残らない文章がある一方で、たくさんの人に長く読み継がれ、後世で研究までされるような文章もある。いわゆる「古典」だ。本稿で紹介する『平安女子は、みんな必死で恋してた イタリア人がハマった日本の古典』(イザベラ・ディオニシオ/淡交社)は、文学ヲタクのイタリア人である著者・イザベラ姐さんが、平安時代の宮廷で花開いた数々の文学作品を、キレッキレでキャッチーな“超訳”とともに届けてくれるエッセイだ。
 

更級日記は、乙女なヲタクの全力妄想日記!?

 日記文学の代表作のひとつ『更級日記』。地方在住の作者・菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ。本書での通称はサラちゃん)が、当時最大のエンタメである『源氏物語』をはじめとする物語を読むために、「京都に行きたい」と、薬師仏(医薬の仏なので専門外なんですけど)に祈りを捧げるシーンがこちらだ。

“いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を造りて、手洗ひなどして、人まにみそかに入りつつ、「京にとく上げたまひて、物語の多くさぶらふなる、あるかぎり見せたまへ」と、身を捨てて額をつき祈り申すほどに…”

(イザベラ姐さんによる超訳)
“あーもうじれったいという気持ちになり、人間と同じサイズの薬師仏を造ってもらい、お清めして、誰も見ていない隙を狙って、その仏像が置かれている部屋に忍び込み、「都へ行かせて!! たくさんあるという物語を、この私に全部読ませてえええええ!!」と床に額をこすりつけて、必死になって祈っていたわ…”

 その後サラちゃんはめでたく上京を果たす。そして念願の物語を読破するだけでなく、リアル恋愛も経験していくのだが、次第に人生のさまざまな壁にぶち当たる。しかしサラちゃんは乙女心を忘れることなく、そして隠された本音を後世に伝えるべく、日記の中に、ある仕掛けをしている…というのがイザベラ姐さんの見立てだ。その本音と隠された仕掛けとは何なのか? ぜひ本書にて確かめていただきたい。

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古典を通じて、「いま」を生きる

 本書ではこの他にも、古典の名作たちが、イザベラ姐さんを通じて軽妙洒脱に語られる。姐さんにかかると、和泉式部は「危険な情事のパイオニア」、小野小町は「お一人様のパイオニア」、藤原道綱母は「ウザイ女のパイオニア」、竹取物語の作者は「フェミニストのパイオニア」である(何せ古典なので、その作者たちは「パイオニア」であることが多いもよう)。

 親の出世のために有力者と結婚させられたり、気ままな外出も許されなかったりと、受け身の人生を強いられることが多かった平安時代の女性たち。本書を読めば、そんな彼女たちが懸命に恋をしたり、自分のためのおしゃれを楽しんだり、はたまた夫の愚痴を延々語ったりと、現代の私たちにも通じる「普遍性」を感じられるだろう。一見とっつきにくそうな古典が、ぐっと身近なものになるのは確実だ。

 本書の魅力はそれだけではない。全体を通じて、イザベラ姐さんが繰り出す語彙の豊かさと、古典の作者と女性キャラクターに対する愛情の深さがこれでもかというほど伝わってくる。的確で豊かな語彙と、泉のようにこんこんと湧き出る愛情。古典の魅力だけでなく、「読まれる文章」についてのヒントも得られたような気がする。女性だけでなく、男性にもぜひ手に取ってほしい1冊だ。

文=水野さちえ

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