【画像あり】ネコ好き浮世絵師・歌川国芳…動物愛が強すぎた絵師たちのユニークな『鳥獣戯画』

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/6

鳥獣戯画の国 たのしい日本美術
『鳥獣戯画の国 たのしい日本美術』(金子信久/講談社)

 先日、脱走したサーバルキャットが無事捕獲されたニュースがネット上で話題になった。サーバルキャットは動物たちを擬人化した大ヒットアニメ『けものフレンズ』のメインキャラクターの一人ということもあって、ネット界隈では別種の盛り上がりがあった。擬人化は日本のサブカルチャーが得意とするところだ。先のサーバルキャット、様々なご当地キャラクター、果てにはゴキブリや戦艦まで。米つぶにも神が宿る“八百万の神”がおわすヒノモトでは、実に様々なモノが人に似せた姿で表現される。

 日本の擬人化力は世界が認めるところ。その源流は『鳥獣戯画』にあることが知られている。ウサギやカエルなどを擬人化して人間社会を面白く描いた国宝である正式名『鳥獣人物戯画』は、約800年前に描かれた遺物にもかかわらず、今でも多くの漫画家、アニメーターをはじめとした幅広いクリエイターたちの創作意欲を刺激している。

「『鳥獣戯画』の名前は知っているけれど、詳細はあまり知らないな」という人には、『鳥獣戯画の国 たのしい日本美術』(金子信久/講談社)がオススメだ。国宝『鳥獣人物戯画』や、それにインスパイアされた多くの作家によって描かれた動物絵画の作品群が、ストーリー性あふれる解説とともに紹介されている。

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 日本人は、とかくネコが好きだ。いや、犬好きも多いが、ネコには人に与しない気ままさがあり、ネコ好きの琴線に触れまくる。

鳥獣戯画の国 たのしい日本美術 p.54

 ネコ好き浮世絵師として知られる江戸末期の浮世絵師・歌川国芳は、様々なネコを擬人化した。『流行猫の曲手まり』は、曲芸師が演じた「曲鞠」を、クセのありそうなネコたちが真剣な顔、したり顔、ドヤ顔をしつつ再現している。ネコ好きはネコに人間らしさを見出すのがサガなのだろうか。

鳥獣戯画の国 たのしい日本美術 p.58-59

 ネコ好き国芳の遺伝子は、弟子にも引き継がれた。歌川芳藤は、ユニークなネコたちの姿をすごろくに仕立てた。爪をといだり、足を洗ったり、マタタビの匂いに恍惚状態になる姿など、いずれのシーンもドラマがあり面白い。コロナ蔓延で外に遊びに行きづらい情勢だ。この夏休みは、本頁を拡大コピーして、親子でネコすごろくに熱中するのも良いかもしれない。

鳥獣戯画の国 たのしい日本美術 p.108

『鳥獣戯画』にはイヌ科の動物も描かれている。キツネだ。私たちは、おとぎ話などからキツネには“イジワル”“ズル賢い”などの負のイメージを持ちがちだが、明治時代の作家・小原古邨は、蓮の葉をエレガントにかぶる見目麗しいキツネを描いた。

鳥獣戯画の国 たのしい日本美術 p.42-43

『鳥獣戯画』の定番登場人物(?)カエルは、ウサギだけではなく、タコやフグとも相撲をとる姿が描かれてきた。カエル、タコ、フグの必死に格闘する様は、迫力は十分で、しかし愛らしい。

 本書は、あとがきで『鳥獣戯画』を通して日本人の本質に迫っている。いわく、西洋の動物画の多くは、動物を愚かな人間の代わりや邪悪な存在として描いている。しかし、『鳥獣戯画』に描かれている動物たちは、いずれもユニークで愛らしい。擬人化は万物への愛しさから生まれた技法なのだ。本書で鳥獣戯画から受け継がれてきた動物絵画の魅力を知るとともに、日本人の美点を再確認してほしい。

文=ルートつつみ