一見、コミカルなネタ漫画だが、骨太な「思想バトル」が見えてくる『異世界の主役は我々だ!』の面白み

マンガ

公開日:2020/8/20

異世界の主役は我々だ!
『異世界の主役は我々だ!』(加茂ユウジ:著, グルッペン・フューラー :原著、 せらみかる+ユーザーのみなさん:デザイン/KADOKAWA)

 詭弁と駄弁、主義と主張。異世界で理想の国家を作るために、極論の持ち主たちがぶつかり合う。ニヒリストと功利主義者、博愛主義者による痛快な「思想バトル」を繰り広げる新鮮な異世界建国ファンタジーである。

 本作『異世界の主役は我々だ!』(加茂ユウジ:著, グルッペン・フューラー :原著、 せらみかる+ユーザーのみなさん:デザイン/KADOKAWA)は出自が独特だ。登場人物のモデルは、ニコニコ動画やYouTubeなどで実況プレイ動画を配信しているグループ「○○の主役は我々だ!(以下、我々だ!)」のメンバー。自作ゲーム投稿コミュニティサービス「RPGアツマール」で、彼らをモチーフにしたゲーム「異世界の主役は我々だ!」がリリースされており、そのゲームをコミカライズしたものが本作となる。つまり「人気実況者→ゲーム化→コミック化」という経緯があるため、マンガ本編にもメンバーをイジるような小ネタやメンバーのキャラクター性を使ったギャグなどがふんだんにちりばめられており、そういった背景を知らない読者を戸惑わせるような、圧倒的な情報量が詰め込まれている。最初は読みにくさを感じるかもしれないが、だんだん読み進めるうちに、骨太な「思想バトル」が見えてくるところが、本作の真骨頂だ。

 戦争が突然勃発し、主人公の鬱大先生は友人のコネシマとともにシェルターへ逃亡。そこで冷凍睡眠に入ってしまい、1000年間眠りについてしまう。目覚めると、世界には不思議なモンスターが跋扈し、現代文明を失った人々が小さな国を作って暮らしていた。「人は生まれながらにして等しく無価値な存在だ」と主張する鬱大先生は、ゲスな行動を重ねながらもこの世界で生き延びようとしていく。

advertisement

 あらゆる権威と価値を否定する「ニヒリズム」を思想の核としている鬱大先生は、「最大多数の幸福」のために国家を作ろうとする「功利主義」のコネシマたちと合流し、隣人愛を唱える「博愛主義」のオスマン枢機卿とともに行動する。やがて圧倒的な「暴力」を持つグルッペンが攻撃を開始し、追い詰められた鬱大先生やコネシマたちは自らの思想をより先鋭化させていく。一見、コミカルなネタマンガだと思っていると、いつしか「思想の持ち方」や「思想がどう変節していくか」が見えてくる。キャラクターの設定やドラマだけでなく、その思想の根幹にある哲学を知ることで、ストーリーの深みが増していくという仕組みが面白い。

 昨今の作品らしく、ただマンガだけで楽しむのではなく、原作のゲームや「我々だ!」の配信もあわせて観ることで、より世界観が広がり、作品を深く楽しむことができるところも特徴。また、ひとつのメディアだけでなく、横断的に様々な要素を織り交ぜてマンガを読むことで、新しい発見もたくさんある。ゲーム版やマンガ版に未登場の「我々だ!」メンバーもおり、彼らがこの物語にどのように介入してくるかも楽しみのひとつだだろう。

文=志田英邦