アニメ『シャチバト』は『半沢直樹』へのアンサーかもしれない!――時代を映す、現代の「働き方改革」アニメ

マンガ

公開日:2020/8/26

 世の中のTVでは「会社もの」「お仕事もの」のドラマが花盛りだ。今夏のTVドラマでは『半沢直樹』『ハケンの品格』と、サラリーマンとして働く男女の姿を描く作品が高視聴率をあげ、SNSでも大きな話題を集めている。

『社長、バトルの時間です!』(C)KADOKAWA・でらゲー・PREAPP PARTNERS/「シャチバト!」製作委員会

 現在放送中の『半沢直樹』は、池井戸潤の小説『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』を原作とするTVドラマシリーズ第2作目。大ヒットした2013年のシリーズ前作を継いで、証券業界に出向させられた元銀行員が、親会社のハラスメントと妨害と戦う(ややひと昔前と思われる)サラリーマンの姿を描いている。主要キャストに歌舞伎役者を起用し、時代劇めいた強烈なインパクトの芝居が話題となり、第1作にならぶ人気を得ているようだ。一方、最終回を迎えたばかりの『ハケンの品格』は、低迷する大手食品商社に来た「伝説のスーパーハケン」と呼ばれる女性が主人公。派遣社員として働く女性がセクハラを受けていることを知ると、彼女はその女性を助け出す。販売データの改ざんがあれば、それを看破。AIの判断によるリストラが断行されようとすると、そのリストラを防ぐために活動する。まさに現代の「働く人」を助ける救世主のような存在だ、ハケンだけど。

 ドラマは時代を映す。2020年の「会社もの」のTVドラマは、その時代の「働く人」を描く。

 60年代の高度経済成長期のスチャラカサラリーマンを描いた『ニッポン無責任時代』や『スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねぇ』、80年代のバブル時代に自分の生き方を貫く男女の恋模様を描いたトレンディドラマ『男女7人夏物語』、そして90年代のバブル崩壊直後の強い女性を描いた『東京ラブストーリー』。時代の空気がドラマには反映され、その時代の「働く人のリアル」が照射されていた。

 そして2020年に入り、「働く人」たちの空気はガラッと変わる。

「働き方改革」が公に叫ばれ、サラリーマンたちは過度な労働をしないように残業などの長時間労働を解消しようという動きが表ざたになった。そして「働く人」に過度な労働を強いる会社は「ブラック会社」と呼ばれ、会社の言いなりになって働いている人は「社畜」と言われるようになった。「働く人」たちにとって「ブラック会社」は敵であり、「社畜」は忌むべき存在になっている。

 そんな2020年代の「働く人」の空気を反映したアニメが『社長、バトルの時間です!(以下、シャチバト)』である。

 この作品は巨大な門があるファンタジックな世界で、宝さがしをするトレジャーハンターの会社の社長に就任することになった新人社長のふんわりストーリー。同タイトルのスマートフォンゲームが原作となるが、アニメ版はほぼオリジナルのストーリーが展開している。アニメ版では零細企業の新人社長になったミナトが主人公。彼は社員であるトレジャーハンターを従えてダンジョンへ向かうのだが、そこで数々の敵「マジュー」と戦うことになる。たとえば、上司と部下と中間管理職の顔をもつ「三つ首マジュー」、『残業』『残業』とつぶやく「社畜マジュー」。ブラックな労働環境を生み出している「ボスマジュー」。いやはや、ゆるふわファンタジーの皮を被りつつも、「マジュー」のモチーフは現代の「働く人」になっているのだ。

 その「敵」との戦い方も面白い。「三つ首マジュー」には上司の首と部下の首をいがみ合わせ、上司の首と部下の首の板挟みになった中間管理の首を困らせたり、無理やり働かされてボロボロになっている「社畜マジュー」に回復魔法をかけることで戦闘意欲を奪ってしまったり、こき使っていた「社畜マジュー」を逃がしてしまうことでブラックな「ボスマジュー」を孤立無援にしたりと、どこか今の会社事情に置き換えられそうなモチーフを混ぜ込んでいるのである。

 主人公のミナトは、敵との戦闘において、自分よりはるかに優秀な彼ら彼女らを瞬時に適材適所へ配置する。それが社長の主な仕事。偏った能力をもつ部下をなだめすかしながら、ちょっとだけ心に踏み込みつつ、ミナトは微妙な距離感で関係を築いていく。そのあたりもどこか現代的だ。最終話まで見ると、新人社長のミナトは、過去に一流企業で起きたパワハラ事件がきっかけでドロップアウトしたことが明らかになるのだが、そんな過去が彼の「社長」としてのスタンスを形作ったのだと思うと、とても興味深い。

 部下を酷使し、壊れたら使い捨てる大企業。それに対抗して、ひとりひとりをしっかりと人間として顔を突き合わせることで、大企業の在り方に反旗を翻す。そんな『シャチバト』のストーリーの構造は、『半沢直樹』や『ハケンの品格』にそっくりだ。だけど『シャチバト』は『半沢』や『ハケン』のようなドギツさははなく、あたたかくふんわりとしたタッチで現代の「働く人」を描く。『シャチバト』の主人公ミナトは、大銀行に「倍返し」をする半沢直樹や、「それが何か?」と突っぱねる『ハケンの品格』の主人公・大前春子のようなヒーローじゃない。過去に失敗したことがある普通の男の子が、自分なりに精一杯頑張る姿が『シャチバト』では描かれているのだ。

「働き方改革」が提唱され、「働く人」たちのスタイルは今もなお変わりつつある。昨今の新型コロナウィルスの騒動で、多くの会社ではリモートワークが推奨され、去年と現在では全く違う「働き方」が求められている。新しい生活様式が求められている中で、2020年の「働き方」を切り取ろうとしたアニメとして『シャチバト』は野心的な作品だったと言えるだろう。

『社長、バトルの時間です!』公式サイト

取材・文=志田英邦