『あつかったら ぬげばいい』『ものは言いよう』…読者の声から考える、ヨシタケシンスケ作品がウケる理由!

文芸・カルチャー

公開日:2020/9/4

あつかったら ぬげばいい
『あつかったら ぬげばいい』(ヨシタケシンスケ/白泉社)

『あつかったら ぬげばいい』というのはヨシタケシンスケさんの最新絵本のタイトルだけど、当たり前のように聞こえるその言葉が、不思議なことに、大人になると、なかなか実践できなくなってしまう。常識とか、まわりの目とかが、気になって、些細なことさえ「こんなことしていいのかな」「こうするべきべきないんじゃないか」と迷ってしまう。だけど「いいんだよ」「なんならこういう選択をしてみてはどうでしょう?」と提案してくれるから、ヨシタケシンスケさんの絵本は子供だけでなく大人も夢中になってしまうのだ。

 同時に、ヨシタケさんの絵本は、忘れかけていた素直な心をとりもどしてもくれる。たとえば以下は、絵本『つまんない つまんない』(白泉社)の、読書メーターに寄せられた感想だ。

つまんない つまんない
『つまんない つまんない』(ヨシタケシンスケ/白泉社)

子どもの頃は「たいくつだ」「つまらない」とよく感じて文句を言っていたものである。いつの間にかそんなこと感じることもなくなり、更にいつの間にか追われるように生きている自分に気がついたりする。面白いはずなのになんだかちょっと寂しくなりました。(ぷるぷる)

幼稚園の頃の我が息子はただ単純にかまってほしくて「つまんない」を連呼していた。育児に余裕のなかった私も「自分でなんとかしなさい」はよく言ったなぁ。あの頃にこの絵本があったら私ももう少し力が抜けて面白いお母さんになれたのに´д` ; 今は「つまんない」とは無縁の、実験、研究漬けの日々を大学で送る息子はこの絵本をどう読むかな(笑)(ろくべえ)

 大人になると、人生なんてそうそうドラマティックには展開しないし、退屈にも慣れてしまう。けれどなんとなくやりすごしてしまいがちな「つまんない」という感情は、世界を支配するほど巨大な敵だった。主人公の少年が「なんかつまんない」という感情の正体を探るうちに、どんどん楽しくなっていく過程は、大人も見習いたいくらい愉快。考える、ってこんなにも楽しいことだったんだ! というのも、教えてくれる。

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子供は遊びを見つける天才だと本当に思うけれど、年齢も進むとこういう事にもなるんだろうなぁ、と思いながら。つまんない、っていう事をあれこれ考えるのは確かに面白いかもしれない。つまんない遊園地に吹きました。(りーぶる)

「つまらない」と「暇」は、何が違うのだろうか? と、ふと思う。「つまらない↔️面白い」なのか? 「暇↔️楽しい」なのか? だとすると、「面白い」と「楽しい」は何が違う? うむむ…??(せ~や)

つまんないひとが300にんくらいあつまったら、私はその空間、きっと楽しめる。(sachizo)

 どこにも行かなくても、道具がなくても、自分の想像力ひとつあれば世界は何十倍もおもしろいものとなる。つまんなくなったらただ視点を変えてみればいい。その過程をむずかしい言葉は使わず、脱力感のあるイラストとともに表現してくれるから、老若男女問わず、自分だけの頭のなかの世界を、心ゆくまで楽しむことができるのだろう。

『それしか ないわけ ないでしょう』(ヨシタケシンスケ/白泉社)

 絵本『それしか ないわけ ないでしょう』(白泉社)は、可能性をどんどん広げてくれる一冊だ。わかったように未来を語るお兄ちゃん。「未来って大変なんだぜ」と暗いことばかり言う彼に、落ちこんだ女の子はおばあちゃんに相談する。そして、「それしかないわけないでしょう!」とどんどん未来を覆していくのだ。

小学生の子どもにとっては視野広く考えるきっかけになる本であり、子どもの未来を不安に思っている親にとっては希望を見出せる本だと思う。(hiyamayuika)

 とあるように、現状を楽しもうとする『つまんない つまんない』よりも、どう生きていくか、生きていきたいかに繋がってくるお話なので、さらに哲学的。

凝り固まった頭をガツンとされる感じ。未来は大変な事ばかりじゃ無いし、もし明るい未来が無ければ自分で作っちゃえばいい。柔軟な想像力を活かしたらきっと未来は素敵になる。出てくるお婆ちゃんの様にポジティブに考えられる大人になりたいな。(けいこ)

未来を悲観していたのは私も同じでこの絵本に救われました。 (略)子供がこれから成長していく中で何度も色んな選択を迫られる時が来る。悩んでいたら子どもに選択肢はたくさんあるんだよってアドバイスできたらいいなぁと思います。(mogomogo)

 大人になればなるほど「こんなもんでしょう」と思いがちなのは、がっかりしたくないから、傷つきたくないから、の予防線でもあるだろうけど、諦めることでけっきょく自分を小さく傷つけ続けていることも往々にしてある。「そんな甘くないよ」と子供に言いたくなる気持ちもありながら、「それしかないわけないでしょう」と強く返してほしいのは、本当は大人のほうかもしれない。

「ほかにもあるでしょ?」じゃないところが、この本のいいところ。「それしかないわけないでしょう」なんて言われたら、ハッとしちゃう。この絵本を読むと元気が出るよ。老いることも、死ぬことも、全部全部素敵。(myc0)

「いいか悪いか」「好きか嫌いか」の二元論ではなく「未来はこうに決まってる」と決めつけるのでもなく.目玉焼きとゆでたまごいがいに想像力が広がる.(Twakiz)

未来がどうなるかなんて、誰にも分からない。与えられた選択肢だけが未来ではない。自分で考えて、選び取っていったものが、未来から現在へと決定されていく。流されるまま生きていくのではなく、自分で考えて選択して生きていくことが大切だと思いました。読み終わってから表紙を見ると、また面白かったです。(紋)

 いいことばかり、きらきらしたものばかりを押し付けられると、逆に「そんなものばかりじゃないよ!」と言いたくなってしまうけど、「他にも探せばあるかもよ」くらいの消極的なポジティブだから、ヨシタケさんの言葉には耳を傾けたくなってしまうのかもしれない。

 それにしてもこの発想力、想像力はどこから生まれているのだろう? デビューからまだ10年も経っていないのに、いまや海外でも評価され、日本を代表する絵本作家と言ってもさしつかえないヨシタケさん。その源泉に触れられるのが、雑誌『MOE』での特集やインタビュー記事などをまとめた『ものは言いよう』(白泉社)だ。

ものは言いよう
『ものは言いよう』(ヨシタケシンスケ/白泉社)

これだけ大切な家族もいて、作家として成功を収めて、なんのかんの人気者でなんであんなグズグズしてんのよ(笑)てなもん。ただこの病的にうじうじとしてる性格が妙に味わい深い観点の作品を生むのだなあとも思った。(桐島陽依)

 なんて感想もあるように、ヨシタケさんはいつもどこか、グズグズ、うじうじしている。だけど、常に自信満々で迷いのない人なんていないし、等身大に小心者で、まわりの目を気にしているヨシタケさんだからこそ、多くの読者にそっと寄り添いながら「こうしてみると楽しくなるかもよ」という提案ができるのだということが、本書を読んでいるとわかる。

彼の作品のどこが好きなんだろうと考えてみた。 きっと普通の暮らしを大切にしているところが好きなんだなと思う。結論を出さず、逃げるべきところは逃げてしまう。教訓を垂れるんじゃなくて、ぼそぼそつぶやいてはとぼとぼ歩く。そんな姿に自分をだぶらせることができるから好きなんだなと思う。(つくえくん)

絵本の着色はデザイナーさんに任せていて、そもそも絵本を描くきっかけは編集さんに言われたからだということには驚いた。創作は自分の力だけでやらなければならないなんてことはない。ただ良い出会いに恵まれるためにも、続けていくことと人に見せていくことは大切なんだと改めて思った。(かやは)

 たった一人じゃ何もできない、弱い自分だからこそ、誰かと一緒にちょっとずつ袖振り合いながら生きていける。ちょっとずつ、互いに「これ楽しいよ」ってことを分かち合えれば、可能性も選択肢も広がっていく。それを、説教臭くなく、あくまでかわいく、味のあるイラストで表現してくれるのがヨシタケさんの絵本の魅力だ。

1冊たっぷり、ヨシタケさんの説明書みたいな本。おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがあります。「読まなくても、持っているだけでもうれしい本」って確かにありますね。(はにちゃん)

 というコメントにならって、まずは1冊、あなたも「持ってるだけでもうれしいヨシタケ絵本」を探してみてはどうだろう。

文=立花もも