二宮和也主演映画『浅田家!』を監督がノベライズ!「家族」を撮り続けた写真家・浅田政志と、彼を支え続けた「家族」の感動実話

文芸・カルチャー

公開日:2020/9/29

※「第5回 レビュアー大賞」対象作品

浅田家!
『浅田家!』(中野量太/徳間書店)

 人生最後の食事は、なにを食べたいと思う? 地球最後の一日は、誰と一緒に過ごしたい? よくある問いかけではあるが、相手を知りたいと思うときには、手っ取り早い質問でもある。最後に口にする食べ物は、当然好きなものがいい。地球最後の一日を、嫌いな人間と過ごしたくはない。そして、『浅田家!』(中野量太/徳間書店)は、こう問われた男の物語だ──「もし、一生にあと一枚しかシャッターを切れへんとしたら、浅田よ、お前は何を撮る?」。

 物語の舞台は三重県津市。その街には、ちょっと風変わりな家族が住んでいる。主夫として家事を一手に担う父、仕事熱心な看護師の母、きっちりした性格の長男・幸宏に、人懐こい次男の政志。浅田家の家族4人は、忙しくても一日一食はともに食卓を囲むという約束のもと、どんな状況でも明るく笑いながら暮らしていた。

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 次男の政志にカメラを教えたのは、父だった。高校を卒業後、大阪の写真専門学校に入学した政志。プロのカメラマンを目指すのだと思われていたが、遊びほうけて落第寸前。卒業制作で優秀な作品を提出すれば卒業させてやると言う担任が、政志に投げかけたのが先の質問だ。一生に、あと1枚しか写真を撮れないとしたら。政志が被写体に選んだのは、家族だった。

 11年前の浅田家を再現した写真で無事学校を卒業した政志は、紆余曲折を経て、家族の写真を撮り続けた。父が憧れた消防士、母が映画で観た極道の妻、兄の夢だった車のレーサー……。家族の“やってみたかったこと”をテーマに、コスプレ家族写真を撮りためたのだ。その写真が、“写真界の芥川賞”といわれる木村伊兵衛写真賞を受け、写真家・浅田政志は一躍有名に。写真家として軌道に乗り、全国で家族写真の撮影をするようになった矢先、東日本大震災が起こる。

 かつて撮影した家族の安否を確かめるため、被災地へと向かった政志は、家族も家も、思い出の写真さえも失った人たちの姿を目にする。津波で泥まみれになった写真を洗浄し、持ち主に返すボランティアとして活動しつつ、「写真家の自分にできることはなにか?」とみずからに問うてみるものの、あまりに苛酷で圧倒的な現実に、政志は答えを出せずにいた。そんなとき、政志の前に、ひとりの少女が現れる。「私も、家族写真を撮って欲しい」。それは津波のあと、いまだ帰らない父親を待つ9歳の彼女の、切なくやるせない願いだった──。

 家族とはなにか、「なりたいものになる」とはどういうことか。本作が全編を通じて訴えかけてくるふたつのテーマは、「いかに生きるか」ということにほかならない。父と母のあいだに生まれ、家族の変化を経験しつつ、みずから選んだ明日の姿を目指して生きる──その中で味わう葛藤と歓びは、被災地で写真家としての道を見出した政志も、憧れたものにはならずとも、政志を支える浅田家の家族も、コロナ禍の渦中にあるわたしたち読者も、変わらないのではないかと思わされる。

 実在の写真家・浅田政志のエピソードや、事実をもとに構成された本作は、2020年10月2日、二宮和也主演の映画も全国で公開される。中野量太監督自身が登場人物の心情をより深く掘り下げた小説も、ぜひあわせて楽しみたい。

文=三田ゆき

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第5回 レビュアー大賞

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