涙ってどうして出てくるの? リラックマ原作者が描く、やさしい思い出の物語『ゆめぎんこう』

文芸・カルチャー

公開日:2020/10/3

ゆめぎんこう
『ゆめぎんこう』(コンドウアキ/白泉社)

 もしも、会いたい人に夢のなかで会えたなら…。そんな喜びと切なさが入りまじる絵本『ゆめぎんこう』(白泉社)を紹介します。

 著者は「リラックマ」や「うさぎのモフィ」など、子どもから大人まで楽しめるイラストや絵本を描いているコンドウアキさん。かわいい、おしゃれ、そばに置いておきたい! と思える絵はここにも健在。まずはママの心をくすぐる絵本を、4歳になりたての息子といっしょに読んでみました。

ゆめぎんこう

 “ゆめぎんこう”は、ゆめを買い取り、そのゆめをアメに変えて売る不思議なお店。いろいろなアメの瓶が所狭しと並んでいて、わくわくさせられます。

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 物語の主人公は、 “ゆめぎんこう”の店主・ぺんぺん。あるとき、「ゆめを買い取ってほしい」との依頼を受け、ゆめを食べるバクのもぐもぐといっしょに出かけました。依頼主は白いヒゲをたくわえたおじいさん。もしかしたら、亡くなった人がゆめに出てきてくれるかもしれない、と考えていたらしいのですが…。

現実と空想を行き来する子どもに「ゆめ」がフィット

 息子は、おじいさんの楽しそうな夢に興味津々。シャボン玉の中に入ってフワフワと浮かぶのを見て、「この丸いのはなあに? どうして中に入ってるの?」と聞いてきます。まだ現実と空想の区別がつかず、その2つを行き来しながら生きているような子どもにとって、「ゆめ」の世界は自分に近い存在で、「自分にも同じことができるのかな?」とでも感じている様子。

 つまり、息子に「ゆめは眠っているときに見るもの」という概念はまだ通じないようなのです。けれども、いずれ理解したときに「ぺんぺんの本で見た…」と思い出してくれるかもしれません。赤ちゃんから読んでいた絵本の内容をいまでも覚えていて口にすることがよくあるので。この本でゆめの予習をして、いつの日か「ゆめ、見たよ!」と話してくれる日が来たら、と楽しみが広がります。

おじいさんが流した涙の意味は…

 それから、息子が興味を示したのは「泣く」場面でした。この絵本には、依頼主のおじいさんとバクのもぐもぐ、2つの涙が出てきます。そのページをめくるたびに「どうして泣いてるの?」と聞かれました。説明するのは難しかったけれど、この2つの涙に共通するのはきっと「人を思いやる気持ち」ではないかと思います。

 筆者はこのシーンに大泣きしましたが、大人はきっと涙の意味を自分なりに感じとって泣くのですよね。悲しいだけではない、涙の意味。息子もまた、その意味を理解して、そんな涙を流すときがやってくるのでしょうか。そう感じた自分の気持ちも我が子との思い出の一つとして、この絵本とともに胸のなかに大切にしまっておきたいと思いました。

ゆめぎんこう

たとえ会えなくても、温かな思い出が胸の中に

 いまのご時世でなかなか会えなくても、もう会えない人でも、いつか自分に寄せられた温かい気持ちを思い出させてくれるような本書。子どもにも、人を思い思われることの温かさを感じとってほしいなと思います。人生つらいこともあるけれど、誰かのやさしさはいろんなところに転がっていて、それをキャッチすることで明日の力につながることが、子どものこれからの人生にもあるのではないでしょうか。

 じつは怖いものが苦手だったりする主人公は、人間らしい(ペンギンらしい?)ところもあって親しみやすく、息子も「今日の絵本はぺんぺん?」とすっかり気に入ったようです。うっとりするようなきれいな絵を見ているだけでも、しあわせ気分♪ 秋の夜長の読み聞かせにおすすめです。

文=麻布たぬ