男子中学生と39歳のヤクザが「カラオケ」を通じて結ばれていく、奇妙な青春漫画が登場【試し読みアリ】

マンガ

公開日:2020/10/24

カラオケ行こ!
『カラオケ行こ!』(和山やま/KADOKAWA)

 漫画家・和山やまさんの勢いが凄まじい。話題作『夢中さ、きみに。』が手塚治虫文化賞短編賞と文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞をダブル受賞したのも、初連載『女の園の星』1巻が単行本化したのも今年のことだ。加えて9月、去年同人誌として和山さんが発表した漫画が描きおろしページを加えて『カラオケ行こ!』(和山やま/KADOKAWA)として書籍化された。

 青春期の男の子たちが中心の短編漫画集『夢中さ、きみに。』とも、女子校の男性教師が主役の『女の園の星』とも異なるテイストのギャグ漫画だ。淡々とした作風で描かれるのは、合唱部部長の男子中学生・岡聡実(おか・さとみ)と39歳のヤクザ成田狂児(なりた・きょうじ)の奇妙な友情である。

 ここまで書いて、「そもそもこの二人の間にあるものを友情と言い切ってしまっていいのか?」という疑問が生まれた。

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 合唱コンクールの後、「カラオケ行こ!」と見ず知らずの中学生を誘い、カラオケで「よろぴく」と名刺を差し出し、歌唱指導をしてほしいと申し出る39歳のヤクザはどう考えても常軌を逸している。一方、聡実はもともと醒めた性格ということもあり、序盤から思い切りひいている。そうだ。怖がっている以上に、ひいているのだ。

 最初は聡実をどこにでもいる中学生だと感じる読者がほとんどだと思うが、彼も普通ではない。カラオケでヤクザが歌っている間に食べ物を注文し、「率直な感想を」と求められるときついことをすらすらと言う。

 聡実は合唱日が休みの日に狂児にカラオケへと連れて行かれることを「拉致」と言い、狂児以外のヤクザに囲まれながら歌のダメ出しをした際は本気で恐怖を感じる。しかし対等に自分と接する狂児にじょじょに心を許していく。

 そんな聡実はまもなく中学校を卒業する。変声期を迎えつつあり、声がかすれ、高音が出なくなっている。中学校生活最後の見せ場である合唱祭は目前に迫っているのに。

“自分の声に裏切られたような気分です。
つらいです。”

 変声期は若い男性であれば、誰でも経験し、人によってはそのことに挫折を感じることもあるだろう。合唱部部長の聡実にとっては人生で初めてぶつかる挫折だったかもしれない。とはいえその直後の聡実の独白は、多くの人は経験できない内容だ。

“だからヤクザの面倒を見る心の余裕なんてないのです。
それでも成田狂児はやってきます。”

 狂児は突き抜けた明るさを持っている。だが、何も考えていないわけではない。聡実も狂児も、性格が大きく変わることはない。それにも拘らず、物語が進むにつれて二人の関係は微妙に変化していく。

 ギャグ漫画は、主にギャグが繰り返されるような雰囲気のものが多く、それが魅力でもある。

 ところが『カラオケ行こ!』は違う。「こんな結末だったなんて」と本を閉じた後しばらく余韻に浸ってしまった。

 和山やまさんの世界観はどこまで広がっていくのだろうか。連載中の『女の園の星』の2巻や、次回作がますます楽しみになった。

 最後に『カラオケ行こ!』前半の試し読みを載せる。ぜひこの漫画の持つオリジナリティを味わってほしい。

文=若林理央



















(C)和山やま/KADOKAWA