号泣必至の『時給三〇〇円の死神』を、『キミスイ』を手掛けた桐原いづみがコミカライズ!

マンガ

公開日:2020/12/10

時給三〇〇円の死神
『時給三〇〇円の死神』(藤まる:原作、桐原いづみ:作画/双葉社)

 時給300円、交通費なし。1日最大4時間までで、超過しても残業代は支払われない。業務内容は人を死にいざなうこと。つまり、死神。条件だけ聞けば最悪でしかないそのバイトに、ひょんなことからスカウトされた高校生・佐倉真司が、時給300円で“死神業”にスカウトされて働く――。

 累計20万部を突破した号泣必至の小説『時給三〇〇円の死神(双葉文庫)』(藤まる/双葉社)が満を持してコミック化され、12月10日に1巻が刊行された。手掛けるのは、『君の膵臓をたべたい』など住野よる作品のコミカライズでも知られる、桐原いづみさんである。

 コミカライズで重要なのは、言葉をそぎ落としていくぶん、行間にたゆたう空気感やキャラクターの心情をふとした表情で描きだすことだと思う。その点、本作はお見事。原作小説を好んで読んだ人の心をも、また違った角度から打つものになっている。

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 たとえば、人生に行き詰まっていた真司の変化。中3で足の怪我をしたのをきっかけに人生が下り坂に向かっていった真司。元政治家の父親が不祥事を起こし、経営する会社は倒産。多額の借金が残り、母親は出ていった。貯金は減る一方なのに、怪我のせいで力仕事ができないうえに、父親のことが知れるとバイトにも雇ってもらえない。大好きだった彼女とも、そのせいで別れた。そんな彼の、絶望をとおりこした諦念が冒頭からひしひしと伝わってくる。ところがある日、クラスで人気者の花森雪希にスカウトされて、死神業を手伝うことになる。

 未練を残したままこの世にとどまり続ける死者を、あの世に送ってあげるのが死神の仕事。といわれても、当然、真司にはぴんとこない。流されるまま連れていかれたのは、やはりクラスメートの朝月静香の家。入院中の妹を喜ばせたいという彼女の願いを叶えるのが初仕事、なのだが、元カノである朝月とふたたびしゃべれたのがうれしすぎる真司のはにかみがかわいくて、見ているだけでほっこりする。だからこそその後、死神業の真実を知ったとき、かつて経験したものよりさらに深い絶望に落とされる姿に、胸が痛むのだが――。

 生と死の狭間に立つ仕事が、楽しいものであるはずがない。300円なんて、正直言って、安すぎる。けれどバイトをやめればその瞬間から、真司は死神として関わったすべてを忘れてしまう。死者たちがどんな想いを未練と化すまで大事に抱いていたのか。その切実さゆえに彼らがそれぞれ真司についた嘘のわけも。だから真司は、忘れないために死神業を続けることを決める。半年後、バイトの期限がきたときにはどちらにせよ記憶は消されてしまうと知っていても、できうる限り、彼らの生きていた証をとどめておくように。

 そして半年間、つとめあげれば、真司はなんでも願いを叶えてもらえる権利を手に入れられるのだが、果たしてそのとき彼はなにを願うのか? そして順風満帆に日々を過ごしているように見える花森はいったい、なぜ死神業などやっているのか。小説とはまた違う景色を見せてくれるコミカライズをぜひ、ラストまで追いかけていってほしい。

文=立花もも

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