どこから読んでも面白い!「まんまこと」シリーズ、2年ぶりの新刊! お気楽な町名主の跡取り・麻之助がついに後妻を!? 

小説・エッセイ

更新日:2021/3/4

『いわいごと』(畠中恵/文藝春秋)

 とかく気になる他人の事情。SNSで誰かがつぶやく悩みごとや、そこに付くコメントに、ついつい見入ってしまうのも、そんな気持ちが働いてしまうからかもしれない。野次馬根性、無責任な物見遊山と言ってしまえばそれまでだけど、そこには人情というものも、陰ながら働いているような気がする。

 江戸は神田。町奉行では裁けない些細な町内の揉めごとを玄関先で裁定する町名主。その跡取り息子・高橋麻之助を主人公にした「まんまこと」シリーズ(畠中恵/文藝春秋)は、登場人物たちとともに、誰かの事情に分け入り、寄り添いながら、“気になる”“知りたい”、己の気持ちを、からっと昇華できるお江戸人情ミステリー。

 第1弾『まんまこと』刊行以来、『こいしり』『ときぐすり』『ひとめぼれ』……と、10年以上続く、100万部超えの人気シリーズに、第7弾『かわたれどき』以来2年ぶり、待望の新刊が登場した。『いわいごと』という、寿いだタイトルから、“今度こそ、麻之助に後妻が!?”と、色めき立ってしまうが、そうは問屋が簡単には卸さないところがまた、畠山作品の妙味で――。

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 町名主の跡取りという立場にありながらお気楽で、普段はとんと頼りにならないが、思いもつかない方法で、揉めごとや謎を鮮やかに解きほぐしていく麻之助は、恋女房・お寿ずを早くに亡くしてしまったつらい過去も持つ。冒頭の「こたえなし」では、後添えに来てもらいたいと申し入れ、なのに、なかなか返事がもらえない料理屋・花梅屋の娘・お雪本人が、麻之助のもとを訪れるくだりから始まる。深川の大水に巻き込まれ、何年かぶんの記憶をなくしたお雪は、かつて自分が、麻之助のことを、まだそう呼ぶ年齢でもないのに、“おじさん”と呼んでいたことが引っかかるようで……。そこへ一緒に富くじを買い、長屋住まいではなかなか手にすることのできない金を手にした3人の若者たちの揉めごと話が持ち込まれ、ひょんなことからお雪も一緒になって調べを始めていくのだが――。

 同じく町名主の跡取りの清十郎、同心見習いの吉五郎との悪友三人組の活躍も健在。「吉五郎の縁談」では、堅物の吉五郎に思わぬ疑いの目が向けられ、幼馴染の名誉と縁談のために麻之助たちが奔走する。

「そこで暮らす人々の毎日が、私の頭のなかではずーっと流れているんです。物語には書いていない何も起きない普通の日々も。シリーズになるって、きっとそういうことなのかなと思うんですよね」。以前、インタビューのなかで畠中さんがそう語っていたように、登場人物たちの上には、読む人たちと同じように月日が流れているのも、このシリーズの読みどころ。そろそろ、自分たちの世代になってくることを意識したかのような悪友三人組の変化も、成長を感じるようでうれしくなる。

 吉五郎の一家の引っ越しを手伝う「八丁堀の引っ越し」、町名主が亡くなったため、その支配町の面倒を誰がみるかという町名主同士の話し合いのなか、その役を押し付けられてしまった麻之助が忙殺される「名指し」、そして「えんむすび」では、麻之助のもとに、なんと縁談が3つもやってくる! だが、どの縁談も妙なところがあるようで……。そして表題作にして、ラストを飾る「いわいごと」では、縁談にまつわる抜き差しならぬ謎が麻之助のもとに持ち込まれる――。

 にぎやかな登場人物たちとともに頭をひねるなか、明らかになっていく“まんまこと=本当のこと”からは、人の情けや心の機微、温かいものが胸にこつんと落ちてくる。シリーズ第8弾ではあるが、物語はそれぞれ独立しているので、この刊から読んでも大丈夫。麻之助たちは初めての読者も喜んで出迎えてくれる。だが、この一冊を読み終えたところで、彼らの過去に何があったのか、きっと知りたくなって、シリーズ作をひもといてしまうだろう。ともあれまずは、麻之助の縁談の行方をしっかと見届けてほしい。

文=河村道子

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