キッチンから幸せ発信! 平野レミさんエッセイ集には、家族と料理への愛情がぎゅっと詰まっていた!

小説・エッセイ

公開日:2021/3/11

家族の味
『家族の味』(平野レミ:著、和田誠:絵/ポプラ社)

 元々はシャンソン歌手。だけれども、夫のため、子どもたちのため、美味しいものを作りたいと料理を頑張っていたら、気がつけば、料理愛好家としてテレビに出るまでなっていた。その人物とは、平野レミさん。そんな家族思いのレミさんによる『家族の味』(平野レミ:著、和田誠:絵/ポプラ社)は、家族と料理への愛情が詰まった温かなエッセイ集だ。

 29品のオリジナルレシピも掲載されているほか、2019年に亡くなった夫でイラストレーターの和田誠さんとの対談、阿川佐和子さん、清水ミチコさんとの鼎談も収録。読めばなんだか料理がしたくなる。「私もレミさんみたいに、家族のために、もっと美味しい料理を作ってあげたい!」という思いがむくむくと湧き上がってくる一冊なのだ。

きっかけは、和田さんの「ひと目惚れ」

 和田さんはレミさんがシャンソンを歌っている姿をテレビで見て、一目惚れしたそうだ。その姿に魅了された和田さんは、共通の知り合いに頼み込んでレミさんを紹介してもらったのだという。レミさん自身は覚えていないというが、はじめてデートした日、訪れたしゃぶしゃぶ屋さんで、レミさんは出てきたタレについて店員さんに熱心に質問した。そんなレミさんの姿をみて、和田さんは、「この人は料理に興味がある人なんだ」「いい奥さんになれそうだ」と思ったのだそうだ。

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「死ぬまでにあと何千回レミのご飯が食べられるかな」

 その後、しばらくして結婚したが、結婚式はしなかった。したことといえば、レミさんが和田さんのアパートへ行って、近所のスーパーで買ったステーキ肉を焼き、「ウエディング・マーチ」のレコードを聴きながら2人で食べたこと。ステーキの焼き方は、レミさんのお母さん直伝。そのおかげか、和田さんは「おいしい」と褒めてくれたのだという。そして、こうも言った。「死ぬまでにあと何千回レミのご飯が食べられるかな」。レミさんは、「あ、この人、食べることに命かけてるのかな。たいへんな人と結婚しちゃった」と思うと同時に、「それならきちっとやればいいんだ、よし、やっちゃおう」と心に決めたのだ。

和田さんは新作料理の実験台…でも、いつもくれるのは優しいコメント

 好奇心旺盛で食いしん坊な和田さんは、レミさんが新しい料理を出すと、ほかに普通のおかずが並んでいても、「ん? これは何だ」と必ず最初に箸をつけてくれる。ちょっとくらい変わったものでも、絶対に否定しない。遠回しに「おもしろい味だけど、ちょっとコクが足りないかな」というように優しくコメントしてくれた。いいコメントを言ってくれる人がそばにいると、料理に自信がついてくるし、上達にも繋がる。レミさんを「料理愛好家」にした立役者は紛れもなく、和田さんだったのだろう。

心のこもった料理は家族の絆を強くする

 和田さんとレミさんの2人の息子さんたちも料理や美味しいものを食べることが好きなようで、自立した後も料理についてレミさんに質問してくるという。特に次男の和田率さんは家を出るとき、レミさんの料理本をたくさんもっていって、友だちにごちそうしていた。ニラ鍋パーティをやったときは、友だちに「こんなおいしい鍋、食ったことがない」と褒められたと電話で報告してきたというからなんとも微笑ましい。レミさんは、味覚で家族が繋がって、絆を強くすることを、“ベロシップ”と呼ぶ。スキンシップならぬベロシップ。忙しくてスキンシップが足りないときでも、心のこもったお料理を作っていれば、家族は知らず知らずのうちに強い絆で結ばれていくのだろう。

 この本を読んでいると、レミさんと和田さんが築いてきた温かい家庭の姿に心が温かくなる。と、同時に、和田さんが他界されたことを思うと、切ない気持ちにもさせられる。

「和田さんが亡くなってわかったのは、あんまり完璧な夫と結婚しない方がいいってことかな。だってさ、いやなところないと諦められないもん」

 もし、今後「理想の夫婦は?」と問われることがあったら、平野レミさんと和田誠さんの名を答えたい。2人の深い絆と強い愛情、そして、その時々を彩った思い出の料理の数々に胸があつくなる一冊。

文=アサトーミナミ