拝んだらヤバい地蔵、多数の人が死んだ事故の場所……『大阪怪談』は町のすぐそこにある恐怖を50篇以上収録!

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/27

大阪怪談
『大阪怪談』(田辺青蛙/竹書房怪談文庫)

 話題の怪談蒐集作家・田辺青蛙が『関西怪談』に続き書き下ろした、なにわ限定の実話怪談集『大阪怪談』(竹書房)が竹書房怪談文庫より発売された。

 田辺氏が、地元である大阪の怖い話を徹底的に取材。コロナ禍の中、オンラインでの聞き取りも敢行。過去と現代をつなぐ恐怖体験など、怪談・奇談が満載だ。

すぐそこにありそうな恐怖……実話怪談の凄み

 本稿のライターは夕方から夜に一気に読んだのだが、正直ちょっと後悔した。ひとつひとつのエピソードの現実味がハンパではなかったからだ。自分が怖がりだったのを思い出させられた。寝るとき「一人暮らしでなくてよかった」と心底思った。

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 本書は大阪に住む人や、ある程度大阪を知る人であれば、なじみがある場所に紐づく恐怖、唐突に起こった不思議な体験を50以上も収録。行ったことがない場所でも「ふつうの日常のすぐ隣にある」と考えると本当に怖い。いくつか、本稿のライターがゾッとした話を紹介する。

【たたり地蔵】

「あそこの地蔵さんは拝んだらあかんねんで」大阪市内のある川沿いにあるこの「たたり地蔵」は、もともと「たたみ地蔵」だった。黒死病(ペスト)の流行時、感染を広げないように遺品や死んだ人が寝ていた畳をこの地蔵の横で焼いた歴史がある。いつしか拝むとよくないことが起こると言われるようになった。

 これを教えてくれた方が冗談で拝んだところ、何もない場所でいきなり転び、強い痛みを感じて見てみると足が真っ黒に内出血していた。「さすがにペストの黒さとは違うだろうけど」と言いつつも、拝む人が増えたら困るので場所は特定されないように配慮してほしいそうだ。

 本書には地蔵の話がいくつか出てくる。謂われの分からない地蔵は日本各地にあるが、何やら身近にあるものの中に……。

【天六ガス爆発】

 ある方が絶対に近づきたくないというK公園。そこに子供と行ったとき、全身がカッと熱くなり、喉がヒリヒリと痛み、口内がカラカラになって舌がひっつき動かなくなった。目、鼻も痛み、とりあえず子供を連れてその場を離れたら急によくなった。

 その公園には慰霊碑がある。昭和45年に実際に起こった天六ガス爆発事故のものだ。炎にまかれ死んだ人も多く、死者79名、重軽傷者420名という大きな都市災害となった。話をしてくれた方の子供はその公園に行きたがるそうだ……なぜか。

【読経】

 環状線の某駅のベンチでウトウトしていた田辺氏。すると彼女の頭に高齢の男性が手をかざして読経をしていた。薄目をあけてやりすごそうと40分以上もじっとし、いなくなってから逃げたそうだ。この話を公の場でしたところ、同じ駅で同様の体験をした方がいた。その方は3人に囲まれて読経されたそうだが、よく聞くと「死んでください、死んでください」と言われているのに気づき、逃げたと。すると自宅の熱帯魚が全滅していた……。

 この話は複数人で怪談話をするオンラインイベントでされたものだったが、そのとき「その人らね、死神ですよ」と女性の声がしたという。誰が言ったのか皆に聞くと、全員首を横にふった。アーカイブの録音を聞きなおすとその声はなかった。しかもそのイベントには著者以外、男性話者しか参加していなかったのだとか。

【いけにえ】

 大阪市内で製造業を営む男性の話。彼の友人が川にペットボトルを投げ入れたところ、カラだったのにそれはすっと沈んだ。男性はその光景を不思議に思い印象に残っていたが、しばらくして友人は同じ川で亡くなった。性格や状況から自殺の線はほとんどない。のちに男性が図書館で読んだ郷土史本に不思議な重なりを見つけてゾッとすることになる。その本によれば、橋をかけるために生贄が必要となった際の人柱の選び方が、沈むはずがないカラのひょうたんを順に投げ入れ、沈んだ者は神に選ばれたと判断する、というものだった。

 本はなぜかその後見つからなくなってしまったそうで、田辺氏が独自に調べると、ある伝承にいきついた。昔、淀川の水害を防ぐために堤を築こうとしたが2カ所だけ、すぐに壊れてしまう難所があったという。ときの天皇の夢で、指定された武蔵の強頸(こわくび)と河内の連衫子(むらじころもこ)を川の神にささげよと知らされた。武蔵の人・強頸は嘆きながら沈められ、1カ所の堤は無事完成。だが河内の人・連衫子は神のお告げを信用できないとし、「ひょうたんを2つ投げ入れ沈んだら神のお告げとあきらめて人柱になる」と言う。結果ひょうたんは沈まず、人柱なしでもう1カ所の堤も完成した。

 その2カ所の堤は彼らの名前から強頸絶間(こわくびのたえま)と衫子絶間と呼ばれた。強頸が人柱になったと思われる場所は、大阪・旭区の千林の普通の住宅地に今もあるという。

 田辺氏がオンライン怪談会や手紙、メールで集めた怪談・奇談。大阪限定で、こんなにあるのか……と恐怖と共に正直驚いた。

怪談・奇談のデパート、怨念が染み出す大阪城

 最後に大阪城について。その天守閣館長の北川央(きたがわ ひろし)さんによれば、実は大阪城自体が怪談・奇談のデパートだそうだ。石垣にはめこまれていた人面石や豊臣方兵士の幽霊が目撃された話。これらは大坂城に大阪城代や定番、大番頭として赴任した経験のある大名が、記録として残している。

 他にもかつて大坂城の爆薬庫に雷が落ちたときに中心部が爆風で吹っ飛び、大勢の犠牲者を出したことがある。城門の扉は生駒山の暗峠(くらがりとうげ)まで飛ばされ、「太閤はんの祟りや」と噂された。姫路城や江戸城にも怪談はあるが大阪城ほど多くはないという。

 現代でも怪奇なことは起きており、「触るとたたりがある」とされるいわくつきの絵巻物を引き取ってほしいという人が来たり、現代の警備員が小早川秀秋の肖像画に話しかけられたりしているそう。さらに豊臣時代の遺構である空井戸状の場所に、何者かがしめ縄を張っているそうで、何の目的でやっているかは不明だ。

 実際に田辺氏は大阪城周辺で和服姿の人たちに声をかけられ「自分たちは大阪城の結界を守っている。徳川家康によって埋められた、豊臣秀吉の城そのものの怨念が染み出していて、城の気が噴出している場所にしめ縄を張っている」と言われたのだとか。

「大阪城の怨念」と言われると、淀殿と豊臣秀頼の悲劇、大坂冬の陣や夏の陣など多くの人が死んだ歴史を考れば、さもありなん……と思える話だ。

 大阪城を、大阪を、見る目が変わってしまうかもしれない一冊である。最後に大阪で教師をしている斎藤さんの言葉を引用する。

大阪はお化け多いですよね。親戚に見える人がいましてね、京都や奈良より何かを感じることが多いって聞いてますよ、生きてる人と同じで目立ちたがりが多いんか、未練がましいんか理由は不明ですけどね

文=古林恭