伊坂幸太郎氏が復刊熱望! 他の小説では味わえないゾクゾク感! ミステリー界のレジェンド・連城三紀彦作品が3ヵ月連続刊行

小説・エッセイ

更新日:2021/4/15

暗色コメディ
『暗色コメディ』(連城三紀彦/双葉社)

 惹き込まれるような美しい描写。背筋凍るおそろしい展開。想像もつかない大胆なトリック……。あなたは小説家・連城三紀彦の作品を読んだことがあるだろうか。『変調二人羽織』や『戻り川心中』『恋文』など、連城作品はどれも極上。他の小説では味わえないゾクゾク感を味わわせてくれる作品ばかりなのだ。だが、連城作品の中には、残念ながら、すでに絶版となってしまっているものも。絶版のままなんてもったいない。どうにかしてあの作品を読むことはできないものか。そう考える連城三紀彦ファンは少なくないだろう。

 竹本健治氏、綾辻行人氏、有栖川有栖氏、伊坂幸太郎氏など、作家の間でも連城三紀彦のミステリー小説ファンは多い。そんな中、伊坂幸太郎氏が、連城作品の復刊を熱望。その要望にこたえる形で企画が進行し、4月から3ヵ月連続で、双葉文庫から復刊されることになった。まず、4月15日に発売されるのは、短編小説でデビューした連城が初めて発表した長編小説『暗色コメディ』。これが初めての長編小説だなんて連城はなんという才能の持ち主なのだろう。特に伊坂幸太郎氏にとって『暗色コメディ』はとても思い入れの強い作品。実は伊坂氏の著書『ラッシュライフ』はこの作品に挑戦するつもりで書いたものなのだそうだ。初めて読んだ時は「これ本当に解決するの?」と興奮し、今回の復刊に際して「恐るべき作家の恐るべき作品」とコメントしている。確かに幻覚とも見紛う異様な事件を描いたこの作品は、あまりにも衝撃的。物語を読み終えてしばらく経った今でも、その余韻が胸に残り続けている。

 そもそも『暗色コメディ』は、はじまりから、谷底に突き落とされたような気分にさせられる物語だ。都内のデパートに買い物に来ていたある主婦は、〈もう一人の自分〉に笑いかける夫を目撃する。一方で、ある画家は、自分の身体を轢いていったはずのトラックが突然消滅したことに驚愕する。また、ある葬儀屋は、妻の行動に悩まされる。妻は、酷暑の新宿で霊柩車を走らせ、読経のテープを垂れ流し続けたのだ。その理由を問うと「あんた、おかしいわ。今日はあんたの初七日じゃないの」と言うのだ。

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 さらに、ある外科医は、妻が別の人間と入れ替わっていると恐怖を感じ始める。——4人が感じる強烈な違和感。日常と紙一重のところに、狂気が無造作に横たわり、読み手を混乱させる。だんだん自分の意識まで信じられなくなってくる。「日本三大奇書」の一冊、夢野久作の『ドグラ・マグラ』並みに、この本は奇怪。読んでいるこちらまで気が狂いそうになるのだ。

 そして、そんな狂気はどんどん増幅していき、4人が通う精神病院・藤堂病院では、次々と事件が巻き起こる。一体何を信じればいいのか。これは、超人的な誰かの仕業なのか。いや、信じがたい事件は、現実的におこりうるもの。幻想小説や怪奇小説のようでありながら、この物語は、歴とした本格ミステリ。奇怪な事件が理路整然と、ロジカルに明かされていくさまには誰だって度肝を抜かれることだろう。

『暗色コメディ』を皮切りに、5月には『人間動物園』、6月には『流れ星と遊んだころ』と連城三紀彦作品 が次々と復刊されていく予定だ。元々連城三紀彦ファンだという人も、未読だという人も、彼の作品の虜になるに違いない。復刊が今から待ち遠しくて待ち遠しくて仕方がない。はやく連城作品ならではの、あの刺激を味わい尽くしたいものだ。

文=アサトーミナミ