モノとバイヤー、それぞれに込められたドラマの濃密さ!『世界はもっと!ほしいモノにあふれてる2 』

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公開日:2021/4/3

世界はもっと!ほしいモノにあふれてる2 ~バイヤーが教える極上の旅~
『世界はもっと!ほしいモノにあふれてる2 ~バイヤーが教える極上の旅~』( NHK「世界はほしいモノにあふれてる」制作班/KADOKAWA)

 ああ、海外旅行に出たい。そして思いきり、現地で素敵な“モノ”を買い込みたい。2021年春のこの状況では、ある意味もっとも実現のハードルが高いこの願望を、この1冊からこんなにも呼び起こされるとは!! そんな罪な1冊がこの『世界はもっと!ほしいモノにあふれてる2 バイヤーが教える極上の旅』だ。

『世界はほしいモノにあふれてる』(NHK総合にて放送)、通称“せかほし”は、世界各地のステキなモノを探し求めるトップバイヤーに密着した紀行ドキュメンタリー。これはその放送回の中から、セレクトされたバイヤー旅を収録した本の第二弾となる。

 さまざまな場所に行き、モノを探して買い付けてくるバイヤーという仕事。“せかほし”に出てくるバイヤーたちのジャンルはとても幅広い。この本で紹介されたバイヤーは6人、それぞれ「郷土菓子」「ボタン」「北欧食器」「ジュエリー」「ワイン」「メガネ」というジャンルのプロフェッショナルたちだ。しかしまあ、彼らの旅の1つ1つの濃厚さと言ったら!

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 お目当てのモノを探し当てるまでのドラマ、向かう場所の地域性や歴史や文化、現地で出会った人たちとのコミュニケーション、職人の矜持……。それらがこの本に、ギュッと濃縮されて詰め込まれている。テレビで観ているときにも出てくるモノの映像にうっとりするこの番組だが(実は筆者はお気に入りの回は録画して繰り返し見ていたりする)、フルカラーの写真でじっくりと楽しめるのは紙の本ならではのメリット。アップで撮られたアンティークボタン(掲載されているエルザ・スキャパレリのボタンは必見)や、北欧食器が並ぶヘルシンキの食卓など、隅から隅までお気に入りのモノを見つけるために眺めてしまう。番組を観ていた人は、舞台裏を知ることができるという楽しみ方もあるだろう。

 また、バイヤーたちのパーソナルな部分をじっくり掘り下げたインタビューがまた面白い。多くの人にとって、彼らが“選んだ”ものは目にしていても、本人と関わることはほとんどないのがバイヤーという仕事。彼らはいかにしてそれら“モノ”と出会い、バイヤーとなったかが、生い立ちからじっくりと紹介されている。24歳のときに3年間かけて自転車でユーラシア大陸を横断、現地の郷土菓子をひたすら調べる旅をしたという郷土菓子研究社代表・林周作氏の話など、そのままドキュメント映画になっていたら、さぞかし面白かったのではという波乱万丈さだ。

 どんなモノにも、作った人が居て、それを選んだ人がいる。そんな物語があるということを、あらためて実感させてくれるこの1冊。しかしそれと同時に、ここではないどこか別の文化に触れて、異国の空気をめいっぱい吸い込んで、素敵なモノに心動かされたい……やっぱりそう思ってしまうのだ。その日が来るのを、ページをめくりながら心待ちにしていようではないか。

文=川口有紀(フリート)