用いるのは他者との対話、癒すのは自身のこころ。「オープンダイアローグ」ってどんなもの?

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公開日:2021/6/4

感じるオープンダイアローグ
『感じるオープンダイアローグ』(森川すいめい/講談社)

 心が疲れてしまった……。そんな時はとにかく自分に無理をさせないことが一番だ。心を奮い立たせる必要も、ひたすらに耐える必要もない。自分の心の内を話せる人が1人でもいるのなら、抱えている辛さや苦しみを打ち明けたっていいはずだ。ただ誰かに聞いてもらい、自分の思いを他者に共感してもらえれば、いま抱えている苦しみから少しは解放されるかもしれない。

 本記事で紹介するのは、身近な人と辛さや苦しみについて対話し、心の回復をはかる精神療法「オープンダイアローグ」について書かれた本だ。タイトルは『感じるオープンダイアローグ』(森川すいめい/講談社)。本書にはその歴史から、著者・森川すいめいさんの経験談やオープンダイアローグの方法、その可能性などが詳しく綴られている。

 オープンダイアローグは、1984年8月27日、フィンランドの西ラップランド地方に位置するケロプダス病院で、統合失調症の治療目的で取り入れられた手法だ。本書の解説によると、それまでの精神医療に患者と医療者の対話はほぼなく、心に病を抱えた人は自己決定ができないと勝手にみなされ、意向も聞かれない。処遇は医療者が決めていたという。ただ「そのやり方では人を支配し管理する世界ができあがってしまうのでは?」「力のある側が力のない側の声を聞かない時代が始まるのではないか」という懸念が生まれたとのこと。オープンダイアローグは、そんな精神医療の現状を変える手法として生まれたと綴られている。

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 冒頭でも述べたように、オープンダイアローグという手法で実践されるのは“対話”だ。またこの手法には、以下のような7つの原則があると森川さんは語る。

・すぐに助ける
・本人に関わりのある人たちを招く
・柔軟かつ機動的に
・責務/責任
・心理的な連続性/積み重ね
・不確実な状況の中に留まる/寄り添う/すぐ答えに飛びつかない
・対話主義

 これら原則は、令和になったいまでもオープンダイアローグを実践するのに必須と考えられているという。中でも森川さんが本書の中で重要視していると感じたのは「本人に関わりのある人たちを招く」という点だ。実際に第四章「オープンダイアローグによる対話風景」では、森川さんと患者との対話風景が綴られる。そこでは患者だけではなく家族、看護師も同席。また、オープンダイアローグをおこなう場所も複数人で入れる部屋を選び、椅子も輪になるように置かれる。こうした環境は、患者が医師と1対1で診察を受けることが多い現代医療では新しい試みと言えるだろう。

 森川さんがオープンダイアローグで目指すゴールは、心の回復や困難の解決だけではない。辛さや苦しみを感じた人が身近な誰かと、自然と対話できるようになることだ。本書でもこのように語っている。

“対話を何度も行うことができれば、お互いのことをだんだん理解するようになる。そして、理解することで、困難や対立が少しずつ解消していくことを体験し、すると、もっと理解したくなる。そうして、スタッフがいないところでも対話が行われるようになる。オープンダイアローグの目的地とは、自然に対話が起こることなのだ”

 森川さんによると、世界でもっとも精神科病院が多い国は日本であり、また長期にわたって入院する人も日本は世界一多いとのこと。ただ世界では、患者の心の内に耳を傾けて入院以外の選択肢を提案する取り組みがおこなわれているという。森川さんが本書で紹介しているオープンダイアローグはその取り組みの1つであり、日本でも精神医療の手法として普及してほしい。そんな熱い思いが込められた1冊といえるだろう。

文=トヤカン

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この記事で紹介した書籍ほか

感じるオープンダイアローグ (講談社現代新書)

著:
出版社:
講談社
発売日:
ISBN:
9784065233047