インターネットの普及がもたらした「功」と「罪」を深掘り! LINE開発秘話やインスタ映えも考察した決定版!

社会

公開日:2021/6/6

平成ネット史 永遠のベータ版

著:
出版社:
幻冬舎
発売日:
平成ネット史 永遠のベータ版
『平成ネット史 永遠のベータ版』(NHK『平成ネット史(仮)』取材班/幻冬舎)

 NHK Eテレで2019年の正月に放送された特番「平成ネット史(仮)」と、同番組から派生したイベント「平成ネット史(仮)展」。これらで言及された内容に、NHK取材班が大幅な追加取材を行いまとめたのが『平成ネット史 永遠のベータ版』(幻冬舎)だ。インターネット(以下、ネット)やスマートフォンの登場によって時代がどう変わったかを分かりやすく噛み砕いた文章が並ぶ。そして、その間に堀江貴文、宇野常寛、眞鍋かをり、ヒャダイン(前山田健一)らの証言が挿まれるという構成である。

 ただし、本書はネットの普及によるポジティブな面のみに光を当てるものではない。ネットの普及以降の状況には功罪があり、良い面ばかりではないことを証言者たちは強調している。そして、その「功」と「罪」の両方に焦点を当てることで、本書は深みと奥行きを獲得している。そんな印象を受けた。

「功」の事例の筆頭として触れられているのが、災害時におけるネットの役割。阪神・淡路大震災では電話が繋がらず、ほとんどの通信手段が失われた中、ネットで被害地域の地図や避難所一覧を知ることができた。また、現在は友達同士の交流に使われるLINEも、震災の教訓として始まったサービス。災害時にも連絡がとれるようにと、東日本大震災から3カ月という異例の早さで開発された。また、Amazonの欲しいものリストをオープンにし、被災地の方が「今これが足りない」という情報を公開することで、全国から物資が寄せられたという。

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 さらに、情報の受け手と送り手の境界が緩くなったことを本書は指摘している。大勢の人に情報を伝えるのは、新聞や放送局などのメディア、及び国や官公庁であり、一般人は情報が送られてくるのを待つしかなかった。それが、文章や写真、動画などを世界に向けて手軽に発信できるようになった。そうまとめられている。

 では、「罪」の部分はどうか。例えば、ネットは偽の情報をばらまくフェイクニュースや、差別を助長するヘイト・スピーチの温床でもある。不祥事を起こした人を徹底的に叩き、フォロワーの歓心を買うという例も多い。宇野氏はこうしたネットの状況を「ワイドショーの2軍」と呼ぶ。

 あるいは、「インスタ映え」という流行の言葉が象徴しているように、自分がどうしたいとか、自分が何を欲しているかではなく、自分がどう見られるかを重視する。そういった傾向はInstagramやツイッターの普及により加速した。「いいね」やフォロワーの数によって自分の価値が決まるような錯覚を抱く人も多いはず。そう本書は指摘する。その背後には、他人からの承認欲求を強く欲する心性が透けて見える。

 ネットはあらゆる人に発言の権利を与えたが、実際には発信に値する中身を持っていない人がほとんど。本書でそう語られているように、ツイッター上で飛び交う意見や感想は玉石混淆であり、内容の良し悪しは精査されない。結果、膨大な情報から真実を探し出さなければならない、という状態に陥っている。

 また、ネットでは自分と意見が合わない情報は遮断する人が多く、考え方や好みが同じ人が集まりやすい。要するに、自分と反対の意見に触れることが少ないのだ。例えばツイッターを見ていると、タイムラインではある政治家や党を支持する人がまったくいないのに、実際には彼ら/彼女らが選挙で勝ってしまう。あるいは、きな臭い法案が通ることに反対する意思をハッシュタグをつけて拡散しても、異なる意見の人には届かない。本書は、そうしたネットが直面している問題を分かりやすく提示してくれている。

 本書の取材班は、マスコミのような中央集権的なシステムからは出てこない、独自の問題設定ができるはず、とSNSに期待を込めている。そのためには、SNS上で自分と正反対の意見にも耳を傾ける寛容さが必要となるだろう。手探りでもいいから、異質な他者とどう向き合うのかを考えるべきだ。ネット社会はまだまだ過渡期なのかもしれない。

文=土佐有明

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著:
出版社:
幻冬舎
発売日:
ISBN:
9784344037205