今年映画公開が決定! 『きのう何食べた?』最新刊で描かれる、主人公ふたりの切ない現実

マンガ

公開日:2021/6/16

きのう何食べた?
『きのう何食べた?』18巻(よしながふみ/講談社)

 電子版を含めて累計700万部を突破している大ヒット漫画『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)。料理上手で倹約家の弁護士・筧史朗(かけい・しろう)と、史朗の恋人で人当たりの良い美容師・矢吹賢二(やぶき・けんじ)の食事と人生にまつわる作品だ。

 1話完結で物語が進み、毎回作中で作られる料理は物語の内容に深く関わっている。現実の年月と共に、登場人物たちが年をとっていくのも特徴的である。

 2019年4月、本作はテレビ東京系列で実写ドラマ化した。毎週土曜日の深夜に放送され、史朗は西島秀俊さん、賢二は内野聖陽さんといった実力派俳優がキャスティングされた。Twitterの世界のトレンド1位にもなったこのドラマは大好評のうちに最終回を迎え、SNSでは「何食べロス」という言葉があふれた。

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 翌年の正月に満を持して単発ドラマ『きのう何食べた?正月スペシャル2020』が放送。1980年代後半から90年代前半にかけて一世を風靡した女優・宮沢りえさんが久しぶりにドラマ出演したことでも話題になった。

 それから1年経った今でも「何食べ」の勢いは衰えていない。何せ今年は『劇場版 「きのう何食べた?」』の映画公開が決まっているのだ。主演は連続ドラマ・単発ドラマと変わらず西島秀俊さんと内野聖陽さんであるということも、視聴者の期待を高めている。

 映画公開まで待ちきれない人におすすめなのが、発売されたばかりの原作漫画18巻だ。1巻で43歳だった史朗は50代後半になったことが言及されている。当初は自分がゲイであることを隠すため賢二とのデートを渋ったり、必要以上に自分がゲイっぽく見えていないか気にしたりしていた史朗。

 年を重ねるにつれて、そんなことより賢二のことを思いやる気持ちが強くなり、18巻は史朗が賢二のことをどれほど大切に思っているかを示す場面も多い。

 象徴的なのは遺産相続に関するエピソードだろう。

 日本はまだ同性婚を認めていない。そのため、史朗が死んでも賢二は遺産を相続できない。史朗は賢二に、自筆証明遺言を作る、もしくはふたつ年下の賢二に養子縁組をしないかともちかける。養子縁組をすれば、何かあったとき連絡がいき、手術の付き添いもスムーズにできるそうだ。

 しかし賢二は浮かない顔をする。

“大体俺 家族って言っても シロさんと親子になりたいわけじゃないもん…”

 彼は将来、日本で同性婚が認められる日に希望を託していた。「史朗さんが死ぬことなんて考えたくない」という気持ちも強い。泣き出す賢二を、あわてて史朗は慰める。

 史朗は現実的な人間だ。死ぬまでに賢二と別れる可能性も考えている。だが彼には賢二に遺産を相続させたい大きな理由があり、それはこのエピソードの終盤に明かされる。

 40代前半だった頃のふたりは、ふたりが迎える未来、そして死をそこまで意識していなかった。しかしあれから10年以上経ち、仕事でも責任のある立場になったふたり。困難に直面することもあるが、お互いを大切に思う気持ちはしっかりと育まれている。

 それが実感できる最新刊。映画公開前にぜひ読んでほしい。

文=若林理央

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