掘り起こした真実に耐えられるか。ツタンカーメンに隠された「おぞましい死の真相」とは

文芸・カルチャー

公開日:2021/8/6

ツタンカーメンの心臓
『ツタンカーメンの心臓』(福士俊哉/KADOKAWA)

 古代エジプトは、なぜか私たち日本人の好奇心をくすぐる。神秘的なエジプト文明を題材にしたエンタメ作品は話題になることが多く、全国各地で定期的に開催されるエジプト展は毎度大盛況。特に「エジプトの秘宝」や「ツタンカーメン」といったワードには心を引き付ける魔力がある。

 そんなエジプトファンに、ぜひ読んでほしいのが小説『ツタンカーメンの心臓』(福士俊哉/KADOKAWA)。作者は古代エジプトを題材とした番組に数多く携わってきた元テレビプロデューサー。

 デビュー作の『黒いピラミッド』(KADOKAWA)は、第25回日本ホラー小説大賞の大賞受賞作。選考委員の綾辻行人氏や貴志祐介氏、宮部みゆき氏はエジプトとホラーを巧みに融合させた同作を大絶賛。ちなみに、同賞は2019年から横溝正史ミステリ大賞と統合され、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」となったため、同作は最後の大賞受賞作となった。

 本作は、そんな大人気作の続編。エジプト考古学史上最大の謎といっても過言ではないツタンカーメンの死の真相が、オカルト的に描かれている。

advertisement

謎多きツタンカーメンの死の裏には「古代神」の影が…

 聖東大学の古代エジプト調査室嘱託研究員である小栗陽は、エジプトで行われるツタンカーメンに関する発掘調査に参加することとなった。調査するのは、電磁波探査により確認された、未盗掘の墓である可能性が高い空間。

 現地では、先輩講師の日下美羽や調査リーダーの桐生蘭子准教授らと共に発掘調査を開始。やがて、入り口らしき空洞が見つかった。

 中に入ってみると、そこには棺に入れられた大量の首なしミイラが。小栗たちは隠し部屋があることを突き止め、そこでミイラの内臓を収める容器「カノポス」を発見。「カノポス」にはこの世を誕生させ、この世が終わる時に復活するとされているオグドアド八神と知恵の神トートの彫像が施されていた。

 オグドアドの力で封印しなければならない“何か”が収められているのだろうか…。そんな印象を与える不気味な「カノポス」は聖東大学に運ばれ、CT調査されることに。ところが、CTスキャン前、予期せぬ事態が。なんと、桐生がからくりを解き、「カノポス」を開けてしまったのだ。

 中から出てきたのは、想像を超えるおぞましいモノ…。これを機に冒険色が濃かったストーリーは一変。底知れない恐怖が作中に漂い始める。

 その後、桐生は「カノポス」を持ち出し、失踪。行方を追う小栗と日下はその過程で、エジプト考古学上で伝説となっているツタンカーメンのパピルスの死者の書を桐生が発見していたことを知り、驚愕。実は桐生、パピルスに隠されていたメッセージを目にし、恐ろしい計画を企てていた。

 企みを阻止するには、彼女よりも先にツタンカーメンの心臓を入手する必要が。そこで、小栗たちはツタンカーメンの死の真相を調べ、心臓の在処を突き止めることに。

 すると見えてきたのは、古代神とツタンカーメンの意外な繋がり。2人は危険な世界へ足を踏み入れることとなる――…。

 冒険やミステリなど、さまざまな要素が盛り込まれた本作は疾走感溢れる、まったく新しいホラー小説。まるで良質な映画を見ているような感覚にもなる。人間が立ち入ってはいけない神々の領域に踏み込んでしまった桐生と絶体絶命の状況に追い込まれる小栗らの運命を、ぜひ見届けてみてほしい。

異国の香りを楽しめるホラーアドベンチャー

 もし、本作を一言で表すのならば「雰囲気がある作品」という言葉を贈りたい。なぜなら、ページをめくるたびに異国の香りが感じられるからだ。

 特に感動したのが、現地の空気感が伝わってくる臨場感満載の風景描写。まるで小栗らと一緒に冒険をしているような感覚になれるので、描かれている恐怖により一層ゾっとする。

 歴史を題材にした物語は難しいのでは…と身構えてしまうこともあるもの。だが、著者の福士氏はエジプト史や古代神の特徴を分かりやすく解説しながら物語を進めてくれるため、すんなりと世界観に入り込める。歴史ミステリの醍醐味であるロマンをなくすことなく、読者の背筋をゾクっとさせる筆力はさすがだ。

 この世に隠されたミステリを、もっと知りたい。そんな探求心も湧いてくる本作は、月刊オカルト情報誌『ムー』や都市伝説が好きな方も大満足できるであろう作品。

 エジプトのプロフェッショナルが贈る渾身の1冊を手に取り、古代ミステリに思いを馳せてみてほしい。

文=古川諭香

あわせて読みたい