二宮和也演じるダメ男×おんぼろロボットの切ない友情。映画『TANG タング』原作のベストセラー小説とは

文芸・カルチャー

更新日:2021/9/1

ロボット・イン・ザ・ガーデン
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(デボラ・インストール:著、松原葉子:訳/小学館)

 イギリス発、無気力に暮らしていた男とおんぼろロボットの感動のストーリーが、これからますます大きな話題を呼びそうだ。その作品とは、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(デボラ・インストール:著、松原葉子:訳/小学館)。

 2016年ベルリン国際映画祭で「映画化したい一冊」に選ばれ、日本国内でもシリーズ累計発行部数25万部を超えるベストセラーになった小説なのだが、2022年夏、二宮和也主演で、『TANG タング』というタイトルで映画化されることが決定したのだ。

 二宮は、ロボットとの友情をどのように演じるのだろう。映画ももちろん楽しみだが、まずは世界中を魅了しているストーリーをぜひとも小説で体感してほしい。この作品は渇いた心を潤すような癒しの物語なのだ。

advertisement

 物語の舞台は、人工知能が発達し、アンドロイドが仕事や家事をこなすことも珍しくはない、今からそう遠くない未来。イギリス南部の田舎村に住む34歳のベンは、両親を事故で失って以来、仕事も家事もせず無気力な日々を過ごしていた。そんなある日、家の庭におんぼろな旧型ロボットが現れる。「タング」と名乗るそのロボットは、四角い胴体に四角い頭、排水ホースみたいな腕にマジックハンドの先端のような手と、なんともレトロな見た目。

 だが、アンドロイドにはない魅力を感じたベンはあれこれとタングの世話を焼き始め、そんなベンに愛想を尽かした妻・エイミーは、彼のもとから去ってしまった。ショックを受けるベンだが、壊れかけたタングの命が残りわずかなことにも気づく。タングを修理するため、ベンは旅に出ることを決意。アメリカ、日本、そして、パラオ。世界を半周する大旅行の果て、ベンはタングを救うことができるのだろうか。

 ロボットとの友情を描いたこの作品は、「英国版ドラえもん」と呼ばれているらしいが、何でも解決できる賢いロボットが登場する話だと思ったら大間違いだ。ベンと出会った時のタングは、できることなんてほとんどなかった。タングはまるで小さな子ども。とっても頑固だし、ワガママ、そして、やんちゃ。ベンが頼みごとをしても「やだ」「なんで」の連続で、なかなか言うことを聞いてくれない。でも、タングは空気を吸うように、一つ一つ物事を学んでいく。そんな姿に、読者はいつの間にかメロメロになってしまうのだ。

 そんなタングとの出会いは、確かにベンを変えていく。ベンの心の中には大きな喪失感があった。突然失った両親のこと、自分に愛想を尽かして出ていった妻のことをどうやっても思い出してしまう。だが、うじうじしてばかりもいられない。無邪気なタングの姿が、止まっていたベンの人生を再び動かし始めるのだ。

 ベンとタングの珍道中には、時に笑わされ、時に驚かされ、時にウルッとさせられる。特に、タングの名前の由来が明らかになる場面では涙腺が緩みまくり。おんぼろにしか見えなかったタングにこんな秘められた能力があったとはと驚かずにはいられない。実は賢くて勇敢なタングをギュッと抱き締めてあげたくなったのは、きっと私だけではないはずだ。

「ああ、ウチの庭先にも、タングが来てくれたらいいのに…」。この本を読めば、そんな想像をせずにはいられなくなる。読後、心に残る確かな温かさ。あなたも、タングと一緒に世界中を旅してみてはいかがだろうか。ベンと同じように、きっとあなたも、タングの姿に救われた思いがするに違いない。

文=アサトーミナミ

あわせて読みたい