永野芽郁主演で映画化! 血のつながり以上の絆を描く瀬尾まいこの感動作【レビュアー大賞課題図書】

文芸・カルチャー

更新日:2021/10/7

そして、バトンは渡された (文春文庫)

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
そして、バトンは渡された
『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ/文藝春秋)

 血のつながり以上の絆と、注がれ続ける深い愛情。累計90万部突破の瀬尾まいこさんの本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)がこの秋映画化される。キャストは主演の永野芽郁さんをはじめ、田中圭さん、石原さとみさんという豪華な顔ぶれ。まだ原作を読んだことがないという人は、これからますます話題になるに違いないこの作品を、ぜひ小説でも味わってほしい。本作は、本とコミックの情報誌『ダ・ヴィンチ』と日本最大級の書評サイト「読書メーター」がベストレビュアーを決定するコンテスト「第6回レビュアー大賞」の課題図書でもある。読書の秋、この物語の温かさに触れ、その感動をレビューへとしたためてみてはいかがだろうか。

 主人公は17歳の女子高生・森宮優子。実の母親を亡くし、父親とも海外赴任を機に別れ、さまざまな事情で、次々と親が代わるという境遇で育った彼女には、父親が3人、母親が2人いる。そんな数奇な運命を知ると、つい複雑な家庭環境を想像して、同情してしまいそうになるだろう。だが、優子は自分のことを全く不幸だと思っていない。むしろ、周囲が求めるような悩みがないことが悩みの種。そう思えるのは、彼女がたくさんの親たちからの愛情を一身に受けて育ってきたためだ。

 実の父親として幼い優子を育てた水戸秀平。明るく可愛らしい天真爛漫な田中梨花。裕福で懐の深い泉ヶ原茂雄。東大卒で一流企業で働いているが、ちょっぴり変わり者の森宮壮介…。そんな親たちに育てられてきた優子はいつだってマイペースだ。大らかな性格に加え、何度も家族が変わった経験のせいか、些細なことでは動じない強さもある。だけれども、誰とでも上手くやれると思っていたのに、高校生活ではちょっとしたトラブルが。そうか、もしかしたら、自分は世渡りが下手なのかもしれない。今まで自分は親たちに守られてきたのかもしれないと、優子は気づかされていく。

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 そんな優子を語る上で欠かせないのが、最後の父親・森宮壮介だ。森宮は優子と20歳しか歳が変わらないが、優子のことを父親として溺愛している。だが、彼はかなり天然。特に、彼が優子のためを思って作る料理は、時に彼女を辟易とさせてしまうのだ。たとえば、始業式の日は、気合を入れるために、朝からヘビーなかつ丼。優子がクラスで揉めた時は、「昨日も一昨日も夕飯がそうめんだったせいだ」と、パワーをつけさせるために、問題が解決するまで毎日餃子を出し続ける。そして、受験前日の夜のオムライスには、爪楊枝とケチャップを駆使して、まるでダイイングメッセージのような赤字で長文の応援メッセージ。どの料理もどこかおかしい。それなのにどの料理からも深い愛情が感じられるのだ。

 親になると、未来が2倍以上になる。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくる。森宮は、優子を育てながらそう実感してきたのだという。普通の親子ってどうしているのだろう。どうすれば本当の親子になれるだろう。時に悩み、空回りする森宮と優子の関係に思わず目頭が熱くさせられる。

 人間は出会う人たちによって形作られ、生かされていくものなのだろう。大切に積み重ねてきた日々は時に血のつながりさえも超えるに違いない。この本には、心の底からそう信じさせてくれる力がある。

 肌寒くなってきた今の季節にこそ、この本をオススメしたい。この本の優しさは私たちをも包み込む。たくさんの人たちの愛情に幸せな気分になれる一冊。

文=アサトーミナミ

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