映画化もされた人間魚雷「回天」をめぐるドラマ

小説・エッセイ

2012/9/26

出口のない海

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:横山秀夫 価格:540円

※最新の価格はストアでご確認ください。

泣きながら読みました。どうしても戦争モノは、涙を流さずには読めません。ましても「回天」人間魚雷で特攻してゆく若者の物語となれば、あらすじを読んでいる時点ですでにボロボロです。

横山氏の筆致は、終始とても控えめで抑え目。ごく限られた仲間うちのドラマを淡々と語ってゆきます。野球にかけた青春を送る並木、ロンドンオリンピックを夢見た北、ピッチャー並木の「女房役」として魔球の登場に心躍らせた剛原。それぞれが、戦争という大きな闇に包まれて、敵も見ないまま訓練の中で死と無理やりに向かい合ってゆく。その戸惑いと、葛藤を細やかに描きこんでゆく秀作です。

物語の全般に流れるのは、なぜあの狂気に向かっていったのか、国のために死んでゆくというのはどういうことなのか、という大命題。上官に殴られ、厳しい訓練に早く特攻隊員になって死にたいとまでも言っている若者たちが実際の場面に向き合うとき、本能的に生にすがる姿は、涙なしにはいられません。そして武士道とでも言うべき、悟りを向かえて死にに行く人たちもいて。何も知らされずにただ待ち続ける家族、女たち。

それほど驚きのない設定、激しいドラマのない展開にも関わらず、一気に読了できるのは、落ち着いていて親近感溢れる作家の筆運びゆえでしょうか。通勤での読書はおすすめできませんが、読み物として、とてもおすすめです。


並木のことを回顧するシーンから物語りは始まり

戦友との再会は劇的で

祖国が存続の危機にある、と言われたら現代の若者も戦地へ向かうでしょうか
(C)横山秀夫/講談社