世界各国から異能の名探偵が日本に集結! 聖遺物を懸けた“推理大戦”の結末とは

文芸・カルチャー

更新日:2021/10/13

推理大戦
『推理大戦』(似鳥鶏/講談社)

“最強を決める戦い”は、いつだって人々の心を熱くする。格闘家の前田日明は、かつて「ごちゃごちゃ言わんと誰が一番強いか決めたらええんや!」と言い放ち、リング上の戦いを激化させた。フィクションの世界でも、『ドラゴンボール』の天下一武道会や『グラップラー刃牙』の最大トーナメントなど、これまで多くの作品で“最強決定戦”が描かれ、読者を熱狂させてきた。

 似鳥鶏さんの『推理大戦』(講談社)は、まさにその探偵版。世界中から集められた名探偵の中で、もっとも優れた頭脳を持つのは誰なのか。貴重な聖遺物を手に入れるため、最強の名探偵を決める推理戦が繰り広げられるというのだから、ワクワクせずにいられない。

 事の起こりは、とある日本の資産家が貴重な聖遺物を見つけたこと。その人物が、知恵比べによる「聖遺物争奪ゲーム」を企画したため、世界中のカトリックおよび正教会から探偵能力に優れた聖職者たちが集められることに。この顔ぶれが、とにかく凄まじい。アメリカ、ウクライナ、日本、ブラジルを代表する名探偵たちがゲームに参加するのだが、超人的な思考速度と映像的記憶能力を誇る「クロックアップ探偵」をはじめ、いずれも人間離れした特殊能力の持ち主ばかり。さらに、能力だけでなく個性も際立っている。ひたすらしゃべり続け、怒涛のようにボケ倒す日本代表の高崎満里愛など、とにかくキャラが濃いこと! 読み進めるうちに彼らに愛着が湧き、お気に入りの探偵に肩入れしたくなるはずだ。

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 物語の前半では、各国代表の異能ぶりを表すさまざまな事件が語られていく。驚かされるのは、ひとつひとつのエピソードの濃密さ。それぞれ長編ミステリーとして成立しそうなほどトリックやロジックが惜しみなく詰め込まれており、あまりの贅沢さに「え、いいんですか……?」と戸惑いを覚えたほど。海外諸国の代表について語られる章は、翻訳ミステリーを思わせる文体になっているのも面白い。

 後半にさしかかると、いよいよ各国代表が日本に集結。雪深い北海道の山奥で、「聖遺物争奪ゲーム」が幕を開ける……のだが、ここでも波乱の展開が。詳しい説明は避けるが、予想もしていなかった“知恵比べ”に巻き込まれてしまうのだ。だが、そこは選び抜かれた名探偵たち。それぞれが特殊能力を活かして謎に挑み、その人ならではの切り口で次々に推理を披露する。とはいえ、そう簡単に解決には至らず、ある探偵が自説を主張すると別の探偵に覆され、また違う説が開陳されると覆され……を繰り返すのも面白いところ。『毒入りチョコレート事件』よろしく推理合戦を繰り広げていく過程が、実にスリリングだ。その後も衝撃が相次ぎ、最後の最後まで目が離せない。かと思えば、あとがきでは似鳥作品おなじみの超展開が繰り広げられ、読者の脳をこれでもかと揺さぶってくる。いやいや、なんと密度の濃いエンターテインメントだろうか。似鳥鶏“最強”の一作、ぜひともシリーズ化してほしい!

文=野本由起

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