『NHK紅白歌合戦』で米津玄師が生中継で歌ったあの美術館はいくらで作られた? 20~21世紀を生きた世界の大富豪たちの素顔

文芸・カルチャー

更新日:2021/11/18

世界大富豪列伝 20-21世紀篇

著:
出版社:
草思社
発売日:
世界大富豪列伝 20-21世紀篇
『世界大富豪列伝 20-21世紀篇』(福田和也/草思社)

 誰しも一度くらいは、新しいことを目にして「あのくらいのアイデアなら、自分だって考えついた」と思ったことがあるだろう。しかし後出しジャンケンでは、先駆者には太刀打ちできない。これまで誰も考えつかなかったアイデアとアイデアを結びつけ、人を集め、それをビジネスにつなげるには途方もない情熱が必要となる。では世界の大富豪と呼ばれる人たちは、何を思いつき、どう稼ぎ、どこへ注力したのか? それがとてもよくわかる読み物が『世界大富豪列伝 20-21世紀篇』(福田和也/草思社)だ。

 本書は19世紀末から20世紀に生まれ、20~21世紀にかけて活躍した21人の大富豪たちの人生が、生まれた年が早い順で描かれる。ひとりにつき10ページほどの短さであるが、情報と内容が詰まり、鮮やかな筆致でぐいぐい読ませる。

『20-21世紀篇』で最初に登場するのは“経営の神様”と呼ばれた松下幸之助だ。父が米相場で失敗し、小学4年までしか学校へ通えず、奉公へ出た松下は、その後松下電気器具製作所を創立、太平洋戦争をくぐり抜け、日本を代表する電機メーカー「ナショナル」(現パナソニック)のブランドを一代で築き上げた。その松下は、政治家を育てる松下政経塾の発足時、ポケットマネー70億円を出したという(塾生が共同生活をする寮が建っている土地代は別で、こちらも個人で所有していた広大な土地と交換で手に入れたという)。松下は昭和が終わってすぐの平成元(1989)年に亡くなったが、遺産総額は2449億円だったというから、70億は確かに「ポケット」なのかもしれない。

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 他の大富豪たちの稼ぐ金も桁違いだ。ボンカレー、ポカリスエット、カロリーメイトを世に送り出した大塚製薬を率いた大塚家は、400億円を投じて美術陶板を展示する大塚国際美術館を建てた(2018年『NHK紅白歌合戦』で米津玄師が生中継で歌った場所としてご記憶の方も多いだろう)。希代の政治家であった田中角栄は、政治資金規正法に則ったオモテ金だけではなく、確実に値上がりする株と土地を安く買い、高く売ってウラ金を作り、それをばらまいて人脈を作ったという。田中が生涯で動かしたウラ金は数百億から一千億円と言われているそうだが、さてその金は誰の懐に入ったのか……。

 その他にはベーブ・ルース(病床の少年の夢を叶える有名なエピソードもある)、藤山愛一郎(実業家として成功したが後に政治家へ転身、白金台にあった広大な邸宅や超有名画家の絵画コレクションなど財産のほとんどを手放してしまった)、本田宗一郎(その人生を著者の福田氏は「蕩尽」と言い表している)、アンディ・ウォーホル(現代アートの巨人であるが、そのアートを大量生産することで別の事業をおこし、莫大な収入を得ていたことがわかる)、ドナルド・トランプ(投資失敗、破綻、スキャンダルなどによって一時は9億ドルともいわれる負債を抱えるも、自身の存在を「ブランド」として使い、テレビなどで活躍し切り抜けた)などなど、大富豪たちの行動は常軌を逸している。しかし常軌を逸しているからこそ、世間の耳目を集め、協力する人が現れて力を発揮し、莫大な富を手に入れられるのだろう。

 掉尾を飾る大富豪は1955年生まれ、サウジアラビアのアルワリード・ビン・タラール王子だ。しかし王子と同じ年に生まれたビル・ゲイツ、スティーヴ・ジョブズの名はない。もっと若い1964年生まれのジェフ・ベゾス、1971年生まれのイーロン・マスク、1984年生まれのマーク・ザッカーバーグもいない。ぜひ彼らの「大富豪列伝」も読んでみたいものだ。

『世界大富豪列伝 19-20世紀篇』と『世界大富豪列伝 20-21世紀篇』は順に読んでいくと、それまでに登場した人物が出てくる。その関係を知ると「なるほど、この富豪とこの富豪がつながっていたのか」とさらに話が膨らんでいく面白さがあるので、ぜひ2冊セットで楽しんでもらいたい。

文=成田全(ナリタタモツ)

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