4つの物語が絡みあい、驚愕のラストへ到る――本年度の〈読書メーター オブ ザ イヤー〉第1位に輝いた衝撃作『ワンダフル・ライフ』

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/6

ワンダフル・ライフ
『ワンダフル・ライフ』(丸山正樹/光文社)

 直木賞を受賞した佐藤究の暗黒資本主義小説『テスカトリポカ』、マッチングアプリ時代の青春を描いた加藤シゲアキ『オルタネート』、BL小説界の実力派・一穂ミチの真価を知らしめた『スモールワールズ』……。2021年の小説界を席巻した数々の力作を押さえ、本年度の〈読書メーター オブ ザ イヤー〉第1位に輝いたのが、丸山正樹氏の『ワンダフル・ライフ』(光文社)だ。

 丸山氏といえば、聴覚障がいをテーマにした社会派ミステリー・シリーズ「デフ・ヴォイス」が代表作だ。同作で2011年にデビューして、10年目となる節目の今年、本書『ワンダフル・ライフ』を上梓した。4組の男女が織りなす4つの物語という構成で、発売当初から書店やSNSで評判を呼び、静かに着々と版を重ねている。

 第1話「無力の王」は、事故で重い障がいを負った妻を自宅で介護する「わたし」(50歳)の日々が、介護内容の詳細と共に綴られる。体が不自由になって以来いつも苛つき、高圧的な態度をとる妻にうんざりしながらも、「わたし」は夜毎ある行為にふけることで心が慰められる――。

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 第2話「真昼の月」は、結婚8年目にして妊活をはじめる三十代後半の夫婦の話。子どもを持つことへの妻と夫の微妙な温度差が、やがて夫婦関係を揺るがしかねない事態を招く。

 続く第3話「不肖の子」は、上司との不倫に詰まりつつある二十代の女性が、新たな男性と出会い、惹かれていくというもの。

 トリとなる第4話「仮面の恋」は、脳性麻痺の主人公がインターネットの交流板で親しくなった女性に恋をするラブストーリーだ。彼女とデートをすることになるが、ありのままの自分の姿を見せることに怖じ気づき、介助ヘルパーであるイケメン青年に協力を請う……。

 これらの話が交互に積み重ねられていく。

 4編の登場人物たちは世代も境遇も、それぞれに抱えている事情や悩みごともちがう。けれど、どの話にも「差別」という、誰もが身に覚えのある感覚が織り込まれている。それが一本の糸となって各話を縫いつなげてゆく。

 第1話や第4話のように、障がい者に対する差別を正面から扱っている話もあれば、第2話では「排除アート」や「養子の選別」、第3話では「出生前診断」といった社会の構造の中に組み込まれている差別や、今現在さまざまに議論されている事柄が取り上げられている。

 ……と記すと、重くてまじめで、読む人に「もっと勉強して!」と訴える内容のようなイメージを与えてしまうかもしれない。

 そんなことはない。たしかにどの話の内容も、展開される人間関係もヘヴィだ。それでいて、彼らの織りなす人間ドラマは読み手の「もっと読みたい」という気持ちを刺激してくる。

 著者はいくつかのインタビューで本書のことを「ミステリーとして書こうと意識しなかった」と語っている。それでも4つの物語が鮮やかに結ばれていく終盤には、良質のミステリーにしか到達できない驚きが隠されている。

 そうして読み終えた後、題名の『ワンダフル・ライフ』という言葉が胸にぐさりと刺さってくる。素晴らしい人生。あるいは、人生は素晴らしい。

 このメッセージをどう受けとめるかは、読む側の心次第だろう。そのとおりに感じる人もいれば、逆説的に響く人もいるかもしれない。読む人によって感想も、解釈もきっと異なる。あなたはどう感じるだろうか。

文=皆川ちか

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