Netflixで実写ドラマ化!『新感染 ファイナル・エクスプレス』監督による、世界を揺るがす新作『地獄』

マンガ

公開日:2021/12/14

地獄
『地獄』(ヨン・サンホ×チェ・ギュソク/双葉社)

 罪を犯した人間は、地獄に落ちる――。これは誰もが一度は耳にしたことがある、この世の謳い文句のようなものだ。しかし、当然ながらぼくたちは、地獄がどんな場所なのか知らない。いや、そもそも存在しているわけがない。死の先に待つのは地獄などではなく、無だ。そう考える人もいるだろう。それは宗教観の違いも関係してくるので、ここで是非は問わない。

 ただし、それはさておき、「そもそも地獄とはなにか」を否が応でも考えさせられる作品がある。韓国で話題騒然となったマンガ『地獄』(ヨン・サンホ×チェ・ギュソク/双葉社)だ。

 本作を手掛けたヨン・サンホさんは、世界中で大ヒットしたゾンビパニック映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の監督である。またタッグを組んだチェ・ギュソクさんは人気マンガ家であり、代表作『錐』はドラマ化され、その地位を確立するに至った。

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 そんな話題のヒットメーカーの合作による『地獄』は、現代社会に警鐘を鳴らすようなモンスターコミック。11月に1、2巻が同日発売された。

 物語の舞台となる韓国では、信じられないような超自然現象が人々を襲っていた。それは神による“死の告知”だ。それを受けた者に逃れる術はない。そしてタイムリミットを迎えると、どこからともなく異形の怪物がやってきて、告知を受けた者を惨殺してしまう。

 その怪現象を機に、韓国内では一大勢力が力を伸ばしていく。彼らの名は「新真理の会」。教祖であるチョン・ジンスを中心に、神の存在を認めることを説いている団体だ。もちろん、神の告知や怪物の存在など信じない警察は、チョン・ジンスをマークする。しかし、そんな警察の前にも怪物が姿を現し、次々と人々は惨殺されていく。

 チョン・ジンス率いる新真理の会の狙い、超自然現象に立ち向かう警察の攻防戦など、本作には読みどころがたくさんあるが、個人的に注目したのは「正義の在り方」だ。

 神に死を宣告される人々には、ひとつの共通点がある。それは「過去に罪を犯した」ということ。チョン・ジンスはそれをフックに、罪人には死を、そして、だからこそ人間は善行を積むべきだと説く。それを真に受けた人々は、神を恐れ、罪人を糾弾していくようになる。同時に、神の存在を否定するような警察に対しても、牙を剥いていく。

 罪を犯した者に石をぶつけ、神に抗おうとする者は組み伏せようとする。その様子はひどく乱暴で、読んでいて目を背けたくなるような描写もある。しかし、彼らに罪悪感は微塵も見られない。なぜならば、彼らは自分のしていることが「正義」だと信じ込んでいるからだ。死んで当然の人間、自分たちの考えを否定する人間には、どんなことをしたっていい。だって、それこそが正義なのだから。

 しかし、それは正義の暴走ではないか。正義を掲げればなにをしても許される。そう信じている人間は、とても恐ろしい。読み進めていくうちに、人間こそが怪物なのではないかと思わされる。そして、あらためてタイトルを見て納得した。歪んだ正義に満ちたこの世の中こそが、地獄なのだ。

 宗教と人間。正義と悪。いくつもの二項対立を内包しながら、やがて物語は人間の生き方へと収束していく。そこでもまた考えさせられる。この世を地獄にするもしないも、すべては人の手に委ねられているのだと。

 本作はNetflixで実写ドラマ化もされている。ドラマとマンガ、どちらからでもいい。ヨン・サンホ監督の解釈による「地獄」に触れて、今一度、正義の在り方について考えてもらいたい。

文=五十嵐 大

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